エピキュリアン。

2002年12月15日
「俺のことを愛してなんかいないんだろ!?」
ヒステリックな彼の声が部屋に響く。
男にしろ、女にしろヒステリーなんてみっともない以外のなにものでもないのに。
あ、でも男の方が声が低い分少しはマシかも。

そんなことを考えていて、何も応えずにいると、彼は足音を荒くしてあたしの方に走ってきた。
何か奇声のような声を上げながら、力尽くであたしを硬い床に押し倒す。
全身の力で頭を打たないように気を遣ったけど、背中を強く打って一瞬呼吸が止まった。
庇った頭も、急激な振動の所為かクラクラして、視界が歪んでくる。気持ち悪い。

「誰だって良いんだろ?」

そう言いながら彼は慣れた手付きで、あたしの服を一枚、また一枚と剥いでいく。
あたしは何も応えない。
否定できないことぐらい判ってるし、否定しようとも思わないから。
そんなあたしの様子が彼の癪に触ったのかもしれない。
あたしの足を抱え込んで、歪んだ欲望を押しつけながら、顔をのぞき込む。そしてまた言う。

「ここに蓋をしてくれる男なら、誰だって良いんだろ?」

多分、彼は否定して欲しいんだろう。それくらいあたしにだって判る。
でも、否定はしない。
彼の言ってることはあながち間違いじゃないから。
だって、しょうがないじゃない。気持ちいいんだもの。

美味しいものを食べたら、やみつきになるでしょ?
また、食べたい、何度でも食べたいって思うでしょ?
でも、それを誰が作るかなんて気にも留めない。
この味を作ることができる人なら、誰だって良い。そう思わない?
あたしはやみつきになってるだけなの。
自分に正直、自分の欲求に正直なだけなの。
美味しいものが食べたいから、美味しいものを探しに行くだけ。

愛していないって貴方は言うけど、そんなことはないのよ。
あたしは貴方を愛してた。腕の良い料理人としてね。これは嘘なんかじゃないのに。
でも貴方にも得意な料理があるように、違う料理が得意な人も山ほどいるの。
だから、あたしはもっと美味しいものを探しに行ったりもするの。
それだけよ。

何も言わないあたしに嫌気がさしたのかなんだかわからないけど、彼は動き始めた。
歪んだ苦しそうな顔で、あたしをひたすらに攻める彼が、少し愛しい。
多分、これが貴方の料理を食べる最後の機会なんだろうね。
掠れた喘ぎ声を上げながら、あたしは目を伏せる。

だって、しょうがないじゃない。
気持ちいいことが大好きなんだもの。
愛とか恋とか、そんなまだるっこしい言葉に踊らされるなんてごめんだし。そんな感情をあたしは知らないし。
彼と別れるのは純粋に寂しいと思うけど、彼はあたしと二度と会いたくもないだろうし。

さよなら。今までありがとね。

++++++++++++++++++

ギリギリR15辺りかも。
快楽に溺れる人と、恋に溺れた人。

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