始めまして、あたしはメイドをやってます。
メイドっていっても、怪しいゲームとか漫画みたいなメイドじゃありません。
あんなひらひらした服を着てるわけでもないし、旦那さまの夜のお供をするわけでもないです。
基本的にあたしの仕事は掃除ばかり。
広いお屋敷ですから、あたし一人じゃ一日で掃除は終わりません。
だからあたしはこの部屋は何曜日に掃除をするって決めて、毎日せっせと掃除に励んでる訳です。
たまにお食事も作りますけど、それは本当にたまに。

あたしが勤めてるのは、資産家の家です。旦那様は株で成功した人らしいですが、良く知りません。あまり興味がないから。
でもこの仕事場があたしは結構気に入ってます。
お給料ももちろん、駅ともそう離れてなくて通いやすいですし。
あ、あたしは泊まり込んではいません。毎日自宅から通ってるんです。
まぁ、資産家のお家なんですから、物件が良いのは当然なんですけどね。

仕事はまあ大変と言えば大変かもしれません。
掃除自体は大して苦労はしませんが、奥様がちょっと気むずかしい方なんです。
あたしが目の前を通っただけで、いきなり叱咤してくることもあります。それが嫌なわけじゃないです、だってそれも仕事の内ですから。
ただ、何に大して怒られてるのか、奥様の言葉はいまいち要領を得ないので、解決できないのが少し辛いところです。
奥様もきっと色々あるんでしょう。
旦那様は忙しい方ですし、結婚してもうそれなりの時間がたったようですから、倦怠期もあるのでしょう。

ある日、あたしは旦那様に呼ばれました。
何か仕事でミスをしたかどうか、あたしは結構頭を使って考えました。
だって、今まで旦那様から呼び出されることなんてありませんでしたから。
どうして呼び出されたのかいまいち分かっていないあたしに旦那様は仰いました。

「結婚しないか?」

あたしは何を言われたのかよくわからなかったので、こう言いました。

「旦那様は既婚者でいらっしゃいます」

あたしがそう言うと旦那さまは楽しそうに笑いました。
おかしくてたまらない、というように。楽しくてたまらない、というように。
その顔はお気に入りのおもちゃを見つけた子供に似ているような気がしました。

「妻とは今度離婚することになった。君に新しい妻の役を頼みたい」

旦那様のお話は要約するとこういうことでした。
今の奥様は気難しく、一緒にいてやはり苦痛なのだそうです。
ですから、離婚をすることになったのですが、独り身になると着飾った女の方が寄ってきて邪魔なのだそうです。
その女性を避けるために、新しい妻が欲しいのだということでした。
あたしがなんと答えようか迷っていると、旦那様は笑いながらまたおっしゃいました。

「これは仕事だと思ってもらえれば良い。もちろん給料も出そう」

つまりあたしに演技をしろということなのでしょう。
何かパーティーのようなものがあれば、あたしに出席しおとなしくしていろということなのでしょう。
そういった役を演じてくれる妻が旦那様は欲しかったのです。

「お給料はいかほどになるのでしょうか」

あたしが尋ねると旦那様は一枚の紙を取り出しました。
それはきっと契約書なのでしょう。
ざっと目を通した所、一月の旦那様の収入の何%と、旦那様になにかあった時の保険の受取人になれるということでした。
それを見たあたしは小さく頷いて、契約書にサインしました。

明日から、新しい仕事が始まります。

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