『アリス』

2003年2月1日
あたしが笑うと彼は喜ぶの。

きっかけがなんだったか、もう覚えてなんていない。
ただ、あたしがちょっと笑ったんだと思う。なんでかなんて覚えてない。
そうしたら、彼が笑ったの。とても嬉しそうに、幸せそうに。
それを見た瞬間、恋ってやつ? まあ、たぶんそれに落ちたんじゃないかな。

それからあたしはよく笑うようになった。
さすがに箸が転がったくらいじゃ笑わないけど。ちょっと微笑むくらいはしたかな。
子猫みたいにじゃれあって、くすぐりあって、また笑った。
彼が笑うとあたしも嬉しかった。少しか、もっとか、そんなことわかんないけどね。
一緒にご飯を食べて、美味しいって笑った。
一緒にノートを見つめて、わかんないねって笑った。
一緒に夢を語り合って、楽しみだって笑った。
一緒に空を見上げて、良い天気だねって笑った。

笑った、笑った。
だって、そうすると貴方が笑ってくれるんだもの。
幸せそうに、嬉しそうに。
だから、あたしは笑うの。

終わりがなんだったか、まだはっきりと覚えてるの。
あたしはいつものように笑ってた。
あたしが笑えば、彼も笑ってくれると信じてたから。
そんなあたしに彼は言ったの。

「終わりにしよう」

彼はとても悲しそうな顔をしていた。辛くて、痛そうな顔をしていたの。
だから、あたしは笑った。
彼の痛みを取り除く事なんてできないけど、せめて彼が安心できるように、笑った。

「僕はきっと君に無理をさせてる」

でもあたしが笑っても、彼は笑ってくれなかった。
それどころかますます悲しそうな顔をして、言葉を綴った。
決して笑わない彼が不思議で、あたしが少し首を傾げると彼はまた続けた。

「君はいつも笑ってる」

そして、だんだんあたしの本質が掴めなくて不安になってしまったのだと彼は言った。
それから、痛そうな瞳でさよならを告げた。
それでもあたしは笑った。彼がとても悲しそうで、見ていられなかったから。
笑いながら、彼を見送った。

それきり。

彼の言葉の意味を理解したのは、しばらくしてからだった。
あたしが笑っても、笑ってくれる人はいなくて。
あたしが幸せになる笑顔を向けてくれる人はいなくて。
やっと判った。

あたしは、少し泣いた。

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