『コムレード』

2003年2月6日
アイシテル、だってさ。
あたしに告白してきたのは、同じ学科に通う先輩だった。
なんかの共同作業で知り合ったのがきっかけで、その連絡用に携帯の番号を教えあったのが始まりだったかな。
良く覚えてないけど。

饒舌な人には見えなかったけど、告白はやけに熱烈だった。それとも自棄になったたのかも、顔は真っ赤で憤死しそうだったし。
何を言われたのかよく分からなかったけど、彼があたしに好意を寄せてくれていて、それ以上を望んでることは判った。
だからあたしは言ったの。
ゴメンナサイ、って。

そのことを話すと、彼はまたかって顔をした。
彼っていうのは、あたしの親友。つき合いはものすごく長い。ひょっとしたらもうすぐ10年くらいになるかもしれない。
彼はあたしが唯一心を許せる人。
こういうとみんな、ああ、恋人なんだなって顔をするから普段は言わないけどね。

恋人じゃないの。
恋なんて軽い気持ちじゃないの。
好きだなんてとんでもない。抱き合ったり触れあうような、熱い関係でもない。
ただ、必要なの。
だって彼はあたしのたった一人の同族だから。

最初に会ったのは、中学生になったばっかりのとき。
新しい制服に新しい学校、見知らぬクラスメートの中でたった一人、彼とだけ目があった。
それだけ。
でもね、それだけが何より重要だったの。
目と目があった一瞬、それだけで判っちゃったんだもの。ああ、同じだって。

あたし達、二人ともこの世界になじめてなかった。
なんだか遠い、別の世界から来たんじゃないかって心のどこかで渇望してるくらいに。
あたしにはこの世界は靄がかかって見える。薄ぼんやりとしていて、輪郭がつねにぼやけてる感じ。
人の心は曖昧で、濁っていて、生気がなくて、見てて悲しくなってくるくらいに、切ない。
彼にはこの世界は灰色なんだって。全てから色素が消えてしまって、触れただけで壊れちゃいそうな、砂の城。

そんな世界で、彼だけがはっきりと視界に映った。
本当に、本当に、泣きそうになった。
物心ついたときから、自分がこの世界にいることが不思議で不思議でしょうがなかったから。

あたし達、逃げたがってるのかな、って彼に言ったら、彼は笑った。
立ち向かう勇気があるなら、慣れようとしているよ、って。

一人だけなら、立ち向かっていけたかもしれない。
だけどね、彼を見つけてしまったから。
たった一人の仲間を見つけてしまったから。妙な所だけ強気になってしまった。
きっとこれからも二人で寄りかかりあいながら生きていくんだと思う。
なんとかなるよねって上目遣いでお互いを見ながら生きていくんだと思う。

馬鹿だよね。
ホント、浅はかだよね。

だけど、もう無理なんだ。
恋よりも、愛よりも、もっと深い所で心が繋がってしまったから。
あたしが誰に告白されたって彼はさらりと流せるの。
彼が誰とつきあったってあたしはふぅんって思うだけなの。
お互いに、お互いの幸せを願ってはいるけれど。

恋よりも愛よりも、強い同族意識は、破れない。

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