樹海の糸。

2003年3月31日
「永遠を願うなら一度だけ抱きしめて」

貴女はそういって非道く優しく微笑んだ。
僕が逆らえない事など知っているのに、分かっているのに、あくまで僕の意志に任せようとしている。

何も考えずに、その手を取れたらどんなに楽だっただろう。
何も知らずに、貴女を力尽くで抱きしめられたらどんなに幸せだっただろう。
それは、叶わない夢となってしまった。
永遠など、僕は欲しくないのだから。

永遠の苦しみを貴女は知らないのだろう。
終わる事がない苦しみ、一つ終わっても、また新たな苦しみが始まる。その、辛さ。
どれほどに力を入れて抱きしめても、共に滅びる事のできない孤独感。
醒めることのない悪夢の中で、いつまで道化を演じ続ければ良いのか。
それさえも、分からないと言うのに。
貴女は何も知らないから。
だから、いとも簡単に永遠という言葉を綴る事ができるのだろう。

僕は知っている。
貴女を抱きしめても、それは永遠になどなりえないと言う事を。
心は満たされず、切なさが込み上げ、痛みばかりが貴女を求める。
貴女と自分に一時の幸せを与え、次の瞬間には全て消え去ってしまう。
胸の痛みは絶えず貴女への思いを叫び、途絶える事のない絶叫が僕を痛めつける。

僕は知っているんだ。
僕は知っているのに、それなのに。

身体は貴女を求め、抱きしめ、もう二度と離さないと口走るだろう。
そして貴女が意識を失う程に、きつく、きつく、抱きしめ、貴女を壊したい衝動に駆られるだろう。
赦しを請うなど、馬鹿げている。
ただ、貴女が愛しかった。本当にそれだけだった。

永遠など有り得ない。
永遠など苦しいだけなのに。

腕の中に貴女がいる。
それが本当に嬉しくて、嬉しくて、胸が張り裂ける程に、切なくて、切なくて。
僕は泣いた。
嗚咽も漏らさず、涙もこぼさず、ただ、泣いた。
この一瞬で全てが終わってしまう事実に。
この一瞬が決して永遠になりえないと言う事実に。
貴女への思いに。
僕は泣いた。

永遠などないんだ。
永遠など願ってはいけないんだ。

腕の中で貴女は微笑んでいた。
満足げに、悲しげに、優しげに。
だから僕は貴女を抱きしめ続けた。
一瞬でも良い、貴女が少しでも永遠を感じ、笑っていてくれれば。
それで良いのだ。

僕はまた胸に痛みを抱える事になるだろう。
慣れる事のできない、愛しい人との別れはしこりとなって、僕の中で残り続けるだろう。
それでも、良いのだ。
貴女が笑ってくれるのならば。
常世の世界に旅立ってしまう貴女が、少しでも苦しまずにいてくれるのならば。

離れないように、と縋り付いてくる貴女を力一杯抱きしめる。
その瞳が、涙で濡れていることを僕は知っている。
それでも、それでも、他に何ができただろう。
死にたくない、と泣いた貴女を切り捨ててしまえばよかったのだろうか。
優しさの欠片も見せずに、二度と会わねば良かったのだろうか。
貴女にとって、どちらが安らかな旅立ちになるのか。
僕には分からない。

ただ、貴女が愛しい。
壊れそうな程に、愛しくて、愛しくて。

それなのに。
短すぎる命は、鮮やかに散ってしまった。

僕は永遠を生きよう。
貴女への思いを永遠に持ち続けよう。
貴女が欲した永遠に少しでも近づけるように。
それ以外、道は思いつかない。

逝ってしまった貴女の、まだ温もりが残る唇にそっと口吻け、僕は涙を流した。
これが、小さな永遠の始まりであり、終わり。

++++++++++++++++++++

なんだろう…。
病気の少女と、永遠を生きる少年…?

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