葉月。

2003年7月14日
記憶に残っているのは、母の白く細い両腕。

母は健康的な人だった。
年を取ることをやめてしまった母の幼なじみの青年は、そう教えてくれた。
病気など滅多にしない人で、少しばかり風邪など引いても、平気な顔で仕事をしていた。
聡い人だから、それが良くないことであることなどわかっているのに、無茶をする人でもあったそうだ。
それなのに、次の日には風邪などあっという間に治してしまい、けろりとした顔でまた仕事場に出てくる。
本当に不思議な人だったらしい。

その話を聞く度に、葉月は何度となく首を傾げてしまう。
彼の記憶にある母は、七歳の時、病に倒れた姿ばかりだ。
触れれば折れてしまいそうな程に細くなり、元々白かった肌も雪を通り越して氷のようだった。
そうやって病に冒される前の母は、微かな面影しか覚えていない。
一緒に走り回った記憶はあるのに、その時の母の鮮明な姿だけがどうしても思い出すことが出来ないのだ。

どんどん細く、白くなっていく腕で、葉月を抱きしめてくれたことは覚えている。
だが、その時に耳元で囁いてくれた言葉は思い出すことが出来ない。
そうやって、母の面影を辿るたびに、会いたいと切に思ってしまう。
そういった想いのはけ口となってしまった青年は、葉月の言葉に苦い笑いを浮かべるだけだった。
会えるものなら自分も会いたい、彼の瞳はいつも雄弁にそう語っている。

そうして最終的に、葉月は月に祈る。
どうかどうか、母が幸せでありますように。

月に祈る資格もない、ちっぽけな子供のたった一つの願いです。

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