夕月。

2003年7月15日
娘が旅立った日のことは、今でもはっきり覚えてる。

快活で明るくて、その上家柄だって本家くらいにしか、負けるところがない。
そんなあの子だから、人気があるだろうとは思ってた。
ひょっとしたら従兄のところに嫁ぐなんて可能性だって、結構よく考えていた。
あの子達に恋愛感情なんてないってことも、わかっていたけれど。

恋する女っていうのは、女ならではの勘を働かせればすぐにわかる。
ちょっとした仕草が変わる。
髪や肌の質も変わるし、何より瞳の輝きが変わる。
良い人が出来たなら、それは親にとっては嬉しいこと。
娘の花嫁姿はきっと綺麗だろう。ひいき目抜きにしても、容易に想像は付いた。

今まで本家や、しきたりにはあまり逆らわない子だった。
従順とは言い難い態度だったけれど、本気で逆らってる訳じゃない。
何よりあの子は、月の神を心から敬って、愛していたのだから。
どんなに長老方のことを嫌っていたとしても、形式にはきちんとこだわっていた。
そんなあの子が、人間のもとへ嫁ぐと言い出したのだから、大騒ぎになるのも無理はなかった。
それは、やってはいけないことだから。
決して禁じられている訳ではないけれど、上に立つ者としての立場上、やってはならないことだった。
それがわからない子ではない。
それでも、あの子は人間の男を選んだ。

親としての立場は複雑なものだった。
反対するべきだということはわかっているし、心から賛成なんて、出来ない。
けれど、あの子には幸せになってもらいたかった。
月の神を愛することも大事だけれど、もっと身近な、触れあえる誰かを愛して欲しかった。
縛り付けでもしない限り、あの子はきっと逃げていってしまう。
それはわかっていたけれど、長老達に何の注意も促さなかったのは、親としての甘さ。

旅立ってしまったあの子の幸せを祈ること。
それが、今のささやかで拙い日課。

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