その人の射抜くような紅い瞳に、きっと魅せられたのだろう。
銀色に輝く満月の下での祭りには、少々うんざりさせられるものがある。
月を讃える一族なのだから、祭り自体に文句はない。むしろ時折行われる祭りは、誰もが好むものであり、自分も例外ではない。
けれど、こう何日も続けられるといい加減疲れをためるだけの代物でしかないというのも、また事実なのだ。
普段ならこういった祭りは、最初に一日、多くて二日目まで顔を出し、残りは家に引っ込んでしまうのだが、今回ばかりはそうもいかない。
何しろ、たった一人の家族である妹の挙式も兼ねているのだ。
自分と妹は、一族の中でそれほど上位ではない家に生まれた。はっきり言ってしまえば、下位に属するだろう。
それについて細かく騒ぐ一族ではないが、やはり隔たりのようなものは存在する。
だが、上位の人々は力も強く尊敬に値する。そのため不満を言うことも別にない。身分差など、どうでも良いと思っていた。
けれど実際問題、妹が上位の人のところへ嫁ぐということは考えたこともなかった。
有り得ないことだと、心のどこかで信じ込んでいたのだ。
それも相手は上位中の上位。一族の中でも、頂点に近い場所にいる男だ。
やはり力の関係上、なんらかの騒ぎはあったらしいが、長老連中も二人の結婚をあっさり認めてしまった。
そのおかげで、自分まで上位の人達とつきあう羽目になってしまった。それだけが、不満と言えば不満だろう。
身分差がないとは言え、力の差が目に見えてしまう一族とは不便だと、つくづく思う。
どれだけ虚勢を張ろうと、劣等感は決して消えたりはしない。
気にしなくても良いのだと、それがわかっていても、それでも消えてはくれない嫌な感情だ。
妹の方とちらりと見やると、隣に座った夫となにやら談笑していた。
ただただ結婚の幸せをかみ締める、平凡な一人の女だ。そこには薄暗い感情など欠片も見えはしない。
溜息を一つ吐き出し、代わりに杯に注がれた酒を飲み干し、席を立つ頃合いを見計らっていると、隣に座っていた女と目があった。
女は紅い目で射抜くようにこちらを見つめ、そして美しく弧を描いた唇で笑うと、口を開いた。
「暇そうだな」
「見ての通りだ」
「そうか。私も暇だよ。宴など一日で充分だろうに」
凛とした声だった。口調には柔らかいところがない。けれど、その声には女としての華がある。
祭りへの愚痴めいた言葉を一つはき出すと、女はどこか遠くへと視線を向け、黙り込んでしまった。
そのまま沈黙が広がる。だが、それは不快なものではなかった。
ただ、すでに自分から外された瞳の紅さと、射抜くような鋭さだけが脳裏に焼き付いた。
銀色に輝く満月の下での祭りには、少々うんざりさせられるものがある。
月を讃える一族なのだから、祭り自体に文句はない。むしろ時折行われる祭りは、誰もが好むものであり、自分も例外ではない。
けれど、こう何日も続けられるといい加減疲れをためるだけの代物でしかないというのも、また事実なのだ。
普段ならこういった祭りは、最初に一日、多くて二日目まで顔を出し、残りは家に引っ込んでしまうのだが、今回ばかりはそうもいかない。
何しろ、たった一人の家族である妹の挙式も兼ねているのだ。
自分と妹は、一族の中でそれほど上位ではない家に生まれた。はっきり言ってしまえば、下位に属するだろう。
それについて細かく騒ぐ一族ではないが、やはり隔たりのようなものは存在する。
だが、上位の人々は力も強く尊敬に値する。そのため不満を言うことも別にない。身分差など、どうでも良いと思っていた。
けれど実際問題、妹が上位の人のところへ嫁ぐということは考えたこともなかった。
有り得ないことだと、心のどこかで信じ込んでいたのだ。
それも相手は上位中の上位。一族の中でも、頂点に近い場所にいる男だ。
やはり力の関係上、なんらかの騒ぎはあったらしいが、長老連中も二人の結婚をあっさり認めてしまった。
そのおかげで、自分まで上位の人達とつきあう羽目になってしまった。それだけが、不満と言えば不満だろう。
身分差がないとは言え、力の差が目に見えてしまう一族とは不便だと、つくづく思う。
どれだけ虚勢を張ろうと、劣等感は決して消えたりはしない。
気にしなくても良いのだと、それがわかっていても、それでも消えてはくれない嫌な感情だ。
妹の方とちらりと見やると、隣に座った夫となにやら談笑していた。
ただただ結婚の幸せをかみ締める、平凡な一人の女だ。そこには薄暗い感情など欠片も見えはしない。
溜息を一つ吐き出し、代わりに杯に注がれた酒を飲み干し、席を立つ頃合いを見計らっていると、隣に座っていた女と目があった。
女は紅い目で射抜くようにこちらを見つめ、そして美しく弧を描いた唇で笑うと、口を開いた。
「暇そうだな」
「見ての通りだ」
「そうか。私も暇だよ。宴など一日で充分だろうに」
凛とした声だった。口調には柔らかいところがない。けれど、その声には女としての華がある。
祭りへの愚痴めいた言葉を一つはき出すと、女はどこか遠くへと視線を向け、黙り込んでしまった。
そのまま沈黙が広がる。だが、それは不快なものではなかった。
ただ、すでに自分から外された瞳の紅さと、射抜くような鋭さだけが脳裏に焼き付いた。
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