貴方を初めて見た日のことは、今でもはっきりと思い出せます。
現神官長の隣に座っている人を見た時、なんとも思うことはなかった。
ふぅん、とか。へぇ、とか。その程度の気持ちしか生まれなかった。
本家ではなく、分家の長男でありながら、本家の一員となった青年。
他に有力な人がいなかったというのが事実だけれど、一目見ただけで、彼の実力ははかり知ることができる。
現神官長からすれば多少は見劣りするが、弱々しいものではない。
若々しい力強さが溢れる、銀色を帯びた透明な力だ。
それは月の光のように繊細で、優しい労りの力を持っていて、私はほうと溜息を吐いた。
宴の席では、お祭り騒ぎになってしまう前に、神官達が月神様に祝詞を捧げる。
これは一種の決まり事。
宴が進んでしまえば、酒に酔った人達が出てきて、祈りどころではなくなってしまうから。
けれど、今日は天満。
すでに酒が入っている人も大勢いたが、神官長が祝詞を彼に譲ったことにほとんどの人が気づいた。
ぱらぱらと驚きの声があがったけれど、彼はそんな声は聞こえないと言うように、朗々と祝詞を読み上げた。
彼の声が空気に溶けて広がって行くにつれて、驚きの声はあっさりと収まってしまった。
もちろん、私も聞き惚れていた。
彼の力と同じ。優しくて、暖かくて、一途な言葉達。
一心に言葉を読み上げる彼は、とても美しかった。
宴の前の堅苦しい仕来りが終わって、無礼講が始まっても、私の耳にはあの声が残っていた。
父に頼めば、紹介してもらえただろう。言葉も交わせたかも知れない。
けれどそんなことをする気にもならなかった。
ただただ、あの美しい言葉の余韻に浸っていたかった。
現神官長の隣に座っている人を見た時、なんとも思うことはなかった。
ふぅん、とか。へぇ、とか。その程度の気持ちしか生まれなかった。
本家ではなく、分家の長男でありながら、本家の一員となった青年。
他に有力な人がいなかったというのが事実だけれど、一目見ただけで、彼の実力ははかり知ることができる。
現神官長からすれば多少は見劣りするが、弱々しいものではない。
若々しい力強さが溢れる、銀色を帯びた透明な力だ。
それは月の光のように繊細で、優しい労りの力を持っていて、私はほうと溜息を吐いた。
宴の席では、お祭り騒ぎになってしまう前に、神官達が月神様に祝詞を捧げる。
これは一種の決まり事。
宴が進んでしまえば、酒に酔った人達が出てきて、祈りどころではなくなってしまうから。
けれど、今日は天満。
すでに酒が入っている人も大勢いたが、神官長が祝詞を彼に譲ったことにほとんどの人が気づいた。
ぱらぱらと驚きの声があがったけれど、彼はそんな声は聞こえないと言うように、朗々と祝詞を読み上げた。
彼の声が空気に溶けて広がって行くにつれて、驚きの声はあっさりと収まってしまった。
もちろん、私も聞き惚れていた。
彼の力と同じ。優しくて、暖かくて、一途な言葉達。
一心に言葉を読み上げる彼は、とても美しかった。
宴の前の堅苦しい仕来りが終わって、無礼講が始まっても、私の耳にはあの声が残っていた。
父に頼めば、紹介してもらえただろう。言葉も交わせたかも知れない。
けれどそんなことをする気にもならなかった。
ただただ、あの美しい言葉の余韻に浸っていたかった。
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