『永遠の定義』

2003年8月23日 魔女
「永遠に?」

赤毛の魔女が首を傾げた。
永遠という言葉の意味が掴めない。そんな顔をしながら、不思議そうに、可愛らしく。

「そう。永遠に。もしくは私が許されるまで」

言葉を返しながら一つ頷くと、自然と吐息が口から零れた。溜息だ。
平静を装っていても、やはりこの言葉を口にしたくはないのだろう。
永遠という言葉も、自分の昔話も、どれも本当は聞きたくない言葉でしかない。

「永遠とは、何?」

首を傾げたまま、魔女が問う。
大きな黒い瞳が、瞬きをすることもなくこちらを見ていた。
心の奥底まで、見透かされそうな程に透明な瞳と、ひんやりとした視線。
その視線は、知られたくない部分に押し入ることは決してしない。
ただ、表面をそっと撫でて通り過ぎていく。
答えを促すかのように。

「終わりがないということ」

短く答えると、魔女は今度こそ不思議そうな顔をした。

「では、あなたはずっとそのままだというの?」

それに対して、可哀想とか、当然だとか、そう言った感情など全く持っていない声で、もう一度魔女は問うた。
純粋に疑問なのだろう。
ただ、それだけ。

「それが、罰だから」

更に短く答える。
本当は言葉になどしたくない。けれど、これは紛れもない事実。逃れることなどできはしない。
罪を犯したものに対し、罰があるのは当然のこと。
それより何より、贖罪の機会を与えてくれたことを喜ぶべきなのだろう。

けれど、永遠という言葉には今では恐怖を覚えてしまう。
贖うことができない罪。
贖罪は終わることもなく、明日も明後日も、十年後も百年後までも続いていく。

「許されたいのね」

気づくと魔女はすでに視線を外していた。
少しばかり俯いて呟かれた小さな言葉は、何故か胸の奥を深く抉った。

「許されたいのね、あなたは」

魔女はもう一度呟いた。とても悲しげに。

「…わからない」

情けない答えを返すと、魔女が少しだけ笑ったのが、空気の流れでわかった。
そうして、魔女は顔を上げ、もう一度真っ直ぐな視線をこちらに向けた。
透明な黒い瞳は、やはり心の内をそっと撫でていく。
けれど、先程よりもそれはどこか暖かかった。
思わず、涙を流したくなる程に。

「永遠とは」

魔女は厳かに呟いた。
小さな娘だ。特別美しい訳でも、特別賢い訳でもない。
けれど、誰よりも純粋な、生まれたばかりの魂は、何よりも神々しく思えた。

「永遠とは刹那があるからこそ成り立っているのだと思う」

言葉を切り、少しだけ首を傾ける。
わかるか、と問い掛けるように。

「光があるからこそ、影が生まれる。友愛があるために、孤独を感じる。赦しもまた同じこと」

魔女は瞳を伏せた。
そして言い放った言葉は、不思議と絶対的な力を持っているような気がした。

「罰とは罪を償うためのもの。許されるためのもの。永遠は、刹那の連続でしかない」

それだけ言い、誰よりも優しい魔女は微笑んだ。
救いを与えようとも、決して許そうとはしない。
だが、それこそが彼女の優しさであり、思いやりであるのだろう。

私は、地上で神を見た。

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