『父娘』

2003年9月20日
心配に決まってるじゃないと娘は口癖のように言った。

「まぁ、母さんがいれば大丈夫だと思うけど」

 そう言って目をきらりと光らせてから笑う。その様は、妻である母によく似ている。というよりも、顔も性格も娘は母に似ている。自分とはあまり似ていないと思う。
 ただ雰囲気はどちらにも似ていない。妻の雰囲気は凛としている様を通り越して、鋭い。触れれば切れそうな空気がある。それに比べると、自分の雰囲気はどうにもぼんやりしているような気がしてならない。
 そして娘の雰囲気は丁度その二つを相殺させた感がある。柔らかく拒絶はしないが、気高く、下心を持っては近づけない。

 父さんは心配よねと良いながら、娘は幼い弟の髪をそっと撫でた。
 十歳以上年下の弟を、娘は自分の子のように可愛がっている。そして息子も少しばかりきつい母より、どう見ても鬱陶しい父よりも、姉を慕っている。

「でもね」

 そう言って、娘は紅い瞳で微笑んだ。

「みんな父さんのことを好きで、みんな父さんのことを心配してるのよ」

 ねぇ、と同意を求めるように呟き、娘はまた弟の髪を撫でた。

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