親友が恋をしてることは知っていた。
そしてそれに悩んで、不眠症に陥っていることも知っていた。
いつしか彼の思いが通じたことも、何となく知っていた。
どんな人かと尋ねると、彼はしばらく考え込むような仕草をした。そして沈黙した。これは埒があかないと香月は瞬時に判断し、無難な質問に変えた。
「美人?」
実際問題、親友の恋人が美人だろうとそうでなかろうと構わない。問題は人間性であって見た目ではない。けれど無難な問いかけが他に思いつかなかったのだ。
「……そう、なんじゃないかな」
首を傾げるような仕草をしながら、対する氷河はこれまた無難な返事を返した。
まぁ、香月としては、ここでものすごい美人だと大げさに語られたあげく惚気られるよりは、無難な解答の方が好ましい。
ふぅんとかへぇとか、そんな返事を氷河に返し、今度は香月が首を傾げた。
「好き?」
聞いてはいけない質問だと、何かが警告を発していた気がする。だがそれは後の祭りだった。
「とても」
そう言って、氷河は笑った。この上なく幸せそうな顔で。それは今まで十数年、親友として隣にいた香月でさえ、見たことのない顔だった。とろける程に甘く、優しく、熱っぽく、それでいて愛しい人しか見えていない微笑み。
「…お幸せに」
親友の表情に、少しばかり動揺しながらも、笑って祝いの言葉を述べた。
他に言う言葉などない。
ただ、彼にこんな表情をさせる誰かに会ってみたいとだけ、それだけ思った。
しばらく何でもない会話に花を咲かせると、外はもうすっかり夜の帳が降りていた。
帰ると呟き、氷河の家を辞して暗い夜道を歩いた。
森の方から、空気を叩きつける羽音と聞こえ、大きな影が一瞬だけ月光に浮かんで、消えた。
そしてそれに悩んで、不眠症に陥っていることも知っていた。
いつしか彼の思いが通じたことも、何となく知っていた。
どんな人かと尋ねると、彼はしばらく考え込むような仕草をした。そして沈黙した。これは埒があかないと香月は瞬時に判断し、無難な質問に変えた。
「美人?」
実際問題、親友の恋人が美人だろうとそうでなかろうと構わない。問題は人間性であって見た目ではない。けれど無難な問いかけが他に思いつかなかったのだ。
「……そう、なんじゃないかな」
首を傾げるような仕草をしながら、対する氷河はこれまた無難な返事を返した。
まぁ、香月としては、ここでものすごい美人だと大げさに語られたあげく惚気られるよりは、無難な解答の方が好ましい。
ふぅんとかへぇとか、そんな返事を氷河に返し、今度は香月が首を傾げた。
「好き?」
聞いてはいけない質問だと、何かが警告を発していた気がする。だがそれは後の祭りだった。
「とても」
そう言って、氷河は笑った。この上なく幸せそうな顔で。それは今まで十数年、親友として隣にいた香月でさえ、見たことのない顔だった。とろける程に甘く、優しく、熱っぽく、それでいて愛しい人しか見えていない微笑み。
「…お幸せに」
親友の表情に、少しばかり動揺しながらも、笑って祝いの言葉を述べた。
他に言う言葉などない。
ただ、彼にこんな表情をさせる誰かに会ってみたいとだけ、それだけ思った。
しばらく何でもない会話に花を咲かせると、外はもうすっかり夜の帳が降りていた。
帰ると呟き、氷河の家を辞して暗い夜道を歩いた。
森の方から、空気を叩きつける羽音と聞こえ、大きな影が一瞬だけ月光に浮かんで、消えた。
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