『遠い記憶』

2003年9月28日
 朧気な記憶が脳裏をかすめた。
 一面に広がる月見草の花。鮮烈なまでの黄色とそれを照らす銀の光。薄暗い光の中で、黄色い花弁が黄金のように輝いていた。どこまでも美しく、儚げな光景。それは涙が出るほどに。

 ゆっくりを瞼を押し上げると、視界が歪んでいた。薄絹をかぶせたかのように曖昧な風景をしばらく眺め、ようやく目が潤んでいるのだということに気がついた。
 泣いていたらしい。
 それほどまでに悲しいのかと、自分に問いかけ、自嘲気味に笑った。悲しいに決まっているのだから。思い出すだけで、涙があふれてくる。言葉にならない思いの代わりとでもいうように。

 ごろりと寝ころんで空を眺める。忌々しいほどにすんだ青がこちらを見ている。そんな気がして目を細めた。太陽の光がやけに眩しい。目を焼かれると、ふと思った。
 懐かしいな。言葉に出さずに思う。寂しいな。悲しいな。会いたいな。言葉にならない思いならば、山のように存在する。けれどそれを声に乗せてしまえば、それは儚くも崩れ去り、涙となるだけなのだ。
 情けないね。つぶやいてみた。こちらはきちんと言葉になった。
 会いたいね。無駄とは知りつつも呟いた。愛しい人に会えるならば、きっとどんな無茶でもやるだろう。

 愛しい。
 ただただそれだけ思った。こんな思いは言葉になんかできやしない。ただ切ないほどに愛しくて、胸を占める思いに締め付けられる。微かに覚える痛みさえ、愛しさの証なのだと喜んでしまうほどに。

 馬鹿げているのかもしれない。
 けれど、なんといわれようと、ただただ愛しいのだ。
 ただそれだけなのだ。

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