『独白』

2003年10月4日 魔女
 魔女は寂しがり屋でね、一度誰かを愛してしまうと、その人がいなくなることが耐えられないのよ。これはみんな同じ。代々同じことを繰り返してる。
 ただ私は……、私の母や祖母や曾祖母よりも馬鹿で愚かで子供だった。だから殺してしまった。憎んでしまった。死んでしまえと叫んでしまった。ただそれだけ。
 母さんは父さんを愛してた。それくらいは子供だってわかることだけど、何故父さんがいなくなったのか、それは知らない。死んでしまったのか、逃げてしまったのか。そんなことはどうでもいいのよ。母さんが父さんを愛していた。それだけが大事なことなのよ。
 十五歳の時かな。私は魔女になった。自分の魂の名前を見つけ出し、魔女の血を引くことを教えられた。それだけで、私は人間ではなくなってしまった。
 …ううん、きっと人間として生きようと思えば、そうなったと思う。ただ私はダメだったのよ。私は愛しい人が私の元を離れていくことを、裏切りとしか受け取れなかった。憎んでしまった。そして終わった。

 今でも覚えてる。苦しげな顔をした彼が呼吸をしなくなって、その体が少しずつ冷たく、堅くなっていく様子を。私はずっと見ていたの。
 ああ、これが死なんだって思った。殺してしまった。大好きな人を。そのことを実感したのは一週間後くらいだったかな。それまではなんだか夢を見てるみたいにぼんやりしてた。

 そして私は村を出たの。母さんは少し前に死んじゃったし。あの村にはいられないって、本能的に悟ったのよ。

 今でも夢を見るの。真っ赤な夕焼けが世界を染めて、私も母さんも真っ赤に染まった。その中で私は真実の名を見つけた。私が私であるという、魂に刻みつけられた名前を見つけてしまった。
 その時の夢を見るの。

 ……おかしいね。大好きな人の死よりも、それよりも印象的だったみたい。
 私は裁かれないから許されることもない。贖う機会なんてこっちから払い下げだし、後悔もしてない。
 良いのよ。この罪だって私を形作るものなんだから。私自身なのだから。嫌って憎んで愛してあげなきゃいけないのよ。

 ねぇ、アムネジア。
 あなたの罪を私は許してあげる。私だからあなたの罪を許せる。だからもう、泣かないで。

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