『徒花』

2003年10月7日 魔女
 花が散っていったのよ。ただそれだけだったの。

 ああ、此処。
 村の共同墓地よ。ちっぽけなもの。ただ石が並んでいるだけにしか見えないし、お世辞にも立派とは言えないけど、それくらいがこの風景には相応だとあたしは思ってる。
 その一番端――あそこに母さんの墓があるの。いつも木の陰になってて、日が当たりにくいから苔とかが生えやすい。だけど墓参りをするときは、木漏れ日がとても気持ちいい。そんな場所。
 とは言っても、あたしは墓参りを一回しかしてないのよ。村を出ると決まったとき、そのときだけ。
 埋葬とかは村の大人がやってくれたの。そういうのをやるには、その頃はまだ幼すぎたんじゃない。

 村をでたあの日。
 あたしは墓の前に曼珠沙華を一輪、地面に差し手出て行ったの。置いてけぼりにするように、遠くからも赤い花が目の裏にちらついてた。
 理由なんかないのよ。ただ赤はやっぱり魔女の色だから。あとはとても綺麗だと思ったから。それだけなのよ。
 曼珠沙華って綺麗でしょう? あんまり縁起はよくないらしいけど、そんなことはどうだっていいんだもの。遠くからでもきらきら光って見えるの、あの赤は。

 なくなっちゃったね、曼珠沙華。根を張ってるとか、そんな淡い期待を持っていない訳じゃなかったんだけど。……やっぱり無理か。無理に決まってるよね。
 大地に帰ったんだよね。母さんも。曼珠沙華も。雨に打たれて、腐って、土にとけ込んで、地球そのものになってしまうんだよね。
 どうしてだろう。どうして、こんなにもすべては儚いのに力強いのだろう。どうして、こんなにも世界は綺麗なんだろう。

 綺麗すぎて、あたしはいつだって泣きたくなるのよ。儚すぎて、脆すぎて、壊してしまう。それなのに、命は力強く続いていて、その矛盾に涙があふれるの。
 この世界は徒花なのよ。

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