『加護』

2003年10月10日 魔女
 天使の加護なんて言い出したら、大笑いしてやるからね。

 そう呟いて、赤毛の魔女は儚く微笑んだ。柔らかい笑みだ。優しく暖かい。いつものような苛烈さが消え失せ、穏やかさばかりが漂っている。
 けれどそれ故に、その微笑みは不自然さを隠し切れていない。彼女は普段ならこんな風に笑ったりしない。暖かく優しい笑みならば常に浮かべているけれど、こんなに儚い笑い方はしないのだ。もっと豪快に、大仰に、それでいて楽しそうに笑うのだ。
 こんな笑い方はらしくない。

「ルナー」

 名前を呼ぶと、魔女はまたふわりと笑った。嬉しそうに、悲しそうに。けれどその笑みにははかなさがなくて、少しだけ安堵したのもまた事実だった。

「何?」

 返事の声も笑っていた。
 弱々しいわけではないが、決して力強くない。何か疲れてしまったような、そんな声だと思った。

「天使は誰も守れやしないの」

 そういうと、魔女は静かに笑った。

「あなたがそこに生きている。それだけであたしの存在は守られているのよ」

 そうして、瞳を伏せた。
 すべてが、儚く見えた。

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