『I wanna meet you more』
2003年11月8日 狐 彼女と再会したとき、不思議となんの感慨も浮かびはしなかった。
最初に出会ったのは、街角だった。いや、見かけたと言った方が正しい。
働き盛りの若者が、少しばかり道を外せば優秀なひったくりになる。今日もそんな男が一人の老婦人から荷物をひったくって走っていくのを、キールは静かに見つめていた。その光景に、彼の興味はない。
ただ、ぼんやりと男の行く手を見つめ、その先に一人の女を見つけ、彼は視点を止めた。
若い女だった。年は二十代と十代の境目といったあたりだろう。比較的背が高くて、すらりとしている。全体的に細いが、弱々しい印象は受けない。頭から布を被っているため、目元はよく見えないが、綺麗な顔立ちをしていることは安易に予想が付いた。
特に変わったところがあるわけでもない。何処にでもいるとは言い難いが、滅多にいないというような雰囲気でもない。だが、目を引かれた。
それと同時に、女の周囲にたゆたっていた闇の精霊が逃げるように、此方に走ってきた。キールに時々見える、小さな闇の欠片達が、何かに怯えるように女から逃げている。そして自分を知覚しているキールの影へ、縋るように逃げ込んだ。
そして、閃光。
目を焼かれるかと思うほどの、眩しい光があたりを覆い尽くした。
白く染まった世界ですぐに視界を取り戻すことが出来たのは、ひとえに闇の精霊のおかげだろう。キールに魔力はない。よって彼らの力を借りることも使うこともできない。だが、知覚できるおかげか、その小さな加護を受けることはできる。それ故に、彼らが強すぎる光を中和してくれたのだろう。
瞬時に光の出所へと目をやると、先ほどの女が平然とした様子で、ひったくりの男に足を引っかけていた。無様に転んだ男から高価そうな鞄を奪い、キールの前を通り抜けると、老婦人へなにやら丁寧に話しかけた。
どうやら、先ほどの光は彼女の力によるものらしい。その所為か、キールの影へ逃げ込んだ闇の精霊が、少しばかり怯えた様子で逃げていった。今度は路地の影にでも逃げ込むつもりのようだった。
そんな愛らしい精霊を見送り、視線を女に向けると、彼女は老婦人の元から立ち去ろうとしていた。
高価そうな鞄は、婦人の手の中にしっかりと収まっていた。
眩しいと思った。純粋に。
彼女とは夕暮れの中で、再会することとなった。最も初対面に代わりはないのだが。
そのときも、闇の精霊が逃げ込んできた。夕闇が迫り、彼らの時間がやってくるというのに、それでも精霊達は怯えていた。目の前の強すぎる力をもつ存在に。
頭に被っていた布がとれ、今度はしっかりと顔を見ることができた。予想通り、美しい若い女だった。切れ長気味の大きな瞳は、鮮血のような美しい紅だった。それが夕日を浴びて、爛々と輝いている。
眩しかった。
夕闇の中にいてさえ眩しい。己の中の光を失わない。夜の中にいてさえ、きっとこの女は光の精霊を味方につけるのだろう。
それ故だろう。
眩しいと思った。焦がれるほどに。
最初に出会ったのは、街角だった。いや、見かけたと言った方が正しい。
働き盛りの若者が、少しばかり道を外せば優秀なひったくりになる。今日もそんな男が一人の老婦人から荷物をひったくって走っていくのを、キールは静かに見つめていた。その光景に、彼の興味はない。
ただ、ぼんやりと男の行く手を見つめ、その先に一人の女を見つけ、彼は視点を止めた。
若い女だった。年は二十代と十代の境目といったあたりだろう。比較的背が高くて、すらりとしている。全体的に細いが、弱々しい印象は受けない。頭から布を被っているため、目元はよく見えないが、綺麗な顔立ちをしていることは安易に予想が付いた。
特に変わったところがあるわけでもない。何処にでもいるとは言い難いが、滅多にいないというような雰囲気でもない。だが、目を引かれた。
それと同時に、女の周囲にたゆたっていた闇の精霊が逃げるように、此方に走ってきた。キールに時々見える、小さな闇の欠片達が、何かに怯えるように女から逃げている。そして自分を知覚しているキールの影へ、縋るように逃げ込んだ。
そして、閃光。
目を焼かれるかと思うほどの、眩しい光があたりを覆い尽くした。
白く染まった世界ですぐに視界を取り戻すことが出来たのは、ひとえに闇の精霊のおかげだろう。キールに魔力はない。よって彼らの力を借りることも使うこともできない。だが、知覚できるおかげか、その小さな加護を受けることはできる。それ故に、彼らが強すぎる光を中和してくれたのだろう。
瞬時に光の出所へと目をやると、先ほどの女が平然とした様子で、ひったくりの男に足を引っかけていた。無様に転んだ男から高価そうな鞄を奪い、キールの前を通り抜けると、老婦人へなにやら丁寧に話しかけた。
どうやら、先ほどの光は彼女の力によるものらしい。その所為か、キールの影へ逃げ込んだ闇の精霊が、少しばかり怯えた様子で逃げていった。今度は路地の影にでも逃げ込むつもりのようだった。
そんな愛らしい精霊を見送り、視線を女に向けると、彼女は老婦人の元から立ち去ろうとしていた。
高価そうな鞄は、婦人の手の中にしっかりと収まっていた。
眩しいと思った。純粋に。
彼女とは夕暮れの中で、再会することとなった。最も初対面に代わりはないのだが。
そのときも、闇の精霊が逃げ込んできた。夕闇が迫り、彼らの時間がやってくるというのに、それでも精霊達は怯えていた。目の前の強すぎる力をもつ存在に。
頭に被っていた布がとれ、今度はしっかりと顔を見ることができた。予想通り、美しい若い女だった。切れ長気味の大きな瞳は、鮮血のような美しい紅だった。それが夕日を浴びて、爛々と輝いている。
眩しかった。
夕闇の中にいてさえ眩しい。己の中の光を失わない。夜の中にいてさえ、きっとこの女は光の精霊を味方につけるのだろう。
それ故だろう。
眩しいと思った。焦がれるほどに。
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