『Close to you more』

2003年11月10日
 光があるから闇がある、とはよくぞ言った物だと思う。
 闇に生きる自分からすれば、彼女はまさに光だった。翳りを知らない、何よりもまっすぐに進む光の塊。彼女――香月は、まさにそんな人だった。

 最初の出会いから数日後、また町で再会すると、彼女はにこりと笑った。

「この間は、ありがとうございました」

 丁寧に頭を下げると、銀色の髪がさらさらと揺れた。それは一本一本が純銀で出来ているかのような光沢を持っており、金属がこすれ合う硬質な幻聴が聞こえそうだと思った。
 今日の彼女は布を被っていなかった。数日前、ナイフで切り裂かれたためだろう。そのため今日はじっくりと彼女の顔を見ることができた。そして遅まきながら、彼女の耳が獣のように柔らかな毛で覆われ、人よりも大きく尖っていることに気が付いた。
 人狐族だ。
 この町のすぐ側にある森の中に、集落を作り、独自の文化を気づいている獣人の一つで、美しい銀の狐に姿を変えることができる。その滑らかな毛皮は、違法な狩猟者の的となりやすいため、人間が入れないような深い森の中で生活していると聞いた。
 そんな訝しむ様子が顔に表れたのか、香月はああと呟いて自分の耳を軽く引っ張った。

「ええ、人狐族です。私は時々遊びに来てるんです、此処に」
「……危険じゃないのか?」

 獣人であるが故に、人間よりも運動神経は優れているだろう。だからといって、一人で出歩くことが安全だと言い切れる訳ではない。むしろ、一人だからこそ、徒党を組んで襲われてはたまった物ではない。
 そう思い反射的に尋ねる。なんとなく、何となくではあるが、この美しい女が狩猟者に襲われる光景を見たくないと思った。

「ちょっと危険です。でも、私には光がついてますから」

 そう言って自信ありげに微笑む彼女は、やはりとても眩しかった。
 それは彼女を愛する光の精霊の力だけではないだろう。彼女の性質そのものが光なのだ。明るくすんでいて、透明な意志。そう言った光り輝くものを、精霊達は愛しているのだろう。
 そして、光の精霊もかくやと思ってしまうほどに眩しい笑顔で、香月は少し躊躇いがちに尋ねた。

「名前、聞いても良いですか?」

 そして光に囚われた。

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