『光』

2003年11月15日
 暗闇の中に、銀色の光がほんのりと浮かび上がっている。
 触れることなどできないが、それは不思議と微かな熱を帯びているような気がする。弱々しく、体温よりも低い、寂しげな微熱を。

 そんな月の光の下で、香月はそっと瞼を下ろした。
 夜特有のひんやりとした風が心地よい。涙が出るほどに。

 月の神よ。
 言葉には出さずに、心の中で祈りを込めて名を呼ぶ。銀の光の中で微笑む、優しく儚い、香月にとってたった一人の神。
 星よりも明るく、太陽よりも闇に近い存在。暗がりの中でしか、輝きを持てない弱い神。

 愛している。

 裏切ってしまった神。愛情を受けるだけで、何一つ返すことができなかった月の神。
 最早、愛の言葉を呟くことさえ、不敬なのかもしれない。けれど、愛しい。

 それでも。
 彼女が祈る神は、たった一つのみ。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索