『apoptosis』
2004年1月3日 その他単発 ぶちぶちと身体が毀れていく音が聞こえた。
それは最初、小さな小さな細胞の欠片から始まって、目に見えるまでの大きな穴を開けるのに、そう時間はかからないに違いない。
小さな破裂音が身体の中から響きだし、耳を通さず、直接鼓膜に触れてくる。三半規管が狂いだし、足下がふらついた。とてもじゃないが、立っていられない。
地面に触れた部分から徐々に、力が抜けてくる。まるで何かに吸い取られるように。最初は膝、それから太ももへと続き、背骨全体に細かな亀裂が入った気がした。そうして、静かに倒れ伏したのだ。
けれど大地は何も悪くない。自分自身が毀れていっているのは、他でもない、自分自身が下した命令のためなのだから。
以前に、小さな石を砕いたことを思い出した。
透明な鉱物は高く澄んだ音を立てて、まっぷたつに割れた。なんの迷いもなく。力に負けたとわかった瞬間、弾け飛んだのだ。
あんな風になれれば良いのに。
そんなことを思いながら、静かに目を伏せた。俯せに倒れている所為で、最初から周囲の風景は見れなかったが、これで本格的に暗闇が広がった。不思議と、そのことに安堵が広がった。
爪の先に違和感を感じ、重い瞼を押し上げると、右腕の爪がぼやけていた。消えている。じわじわと何かに浸食されるように、あるはずのものがなくなり始めている。
その現象を見咎めることは、最早無駄なのだ。どう足掻いたとしても、避けることなど出来ない。分かり切っている。
さよなら。
この世界に別れを告げるのは、これが最初で最後だろう。別れなど、何度も告げたい物ではない。だからもう、あとは消えるしかない。わかっている。逃げたりしない。逃げれないのだから。
たった一つ、この身体に潜んでいる命令のために、消えねばならないことに、今ではもう不満などない。
この身体が生まれたときから、それは予感していたことなのだ。いつか、消える。いつか、死ぬだろう。何故なら、この身体は非道く高慢なのだだから。
意志を曲げて生きるくらいなら、さっさと身体を破壊してしまうほどに。
きっと家族の誰もがいつの間にか消え去ったのはこういうことなのだろう。
細胞の欠片まで破壊され、消滅し、存在という存在が消えてしまう。だからもう、終わりなのだ。
瞼の向こうには天国が見える。そう教えてくれたのは誰だったのだろう。
そのときは信じたけれど、今は何も見えはしない。存在するのは静謐なまでの暗闇のみ。けれど何故か、心地よい。
さよなら。
別れを告げるのは最後だと思ったけれど、本当の最後にもう一度。
それだけ、この世界が名残惜しかったのだ。誇り高い身体を見捨てたくなるほどに。
それは最初、小さな小さな細胞の欠片から始まって、目に見えるまでの大きな穴を開けるのに、そう時間はかからないに違いない。
小さな破裂音が身体の中から響きだし、耳を通さず、直接鼓膜に触れてくる。三半規管が狂いだし、足下がふらついた。とてもじゃないが、立っていられない。
地面に触れた部分から徐々に、力が抜けてくる。まるで何かに吸い取られるように。最初は膝、それから太ももへと続き、背骨全体に細かな亀裂が入った気がした。そうして、静かに倒れ伏したのだ。
けれど大地は何も悪くない。自分自身が毀れていっているのは、他でもない、自分自身が下した命令のためなのだから。
以前に、小さな石を砕いたことを思い出した。
透明な鉱物は高く澄んだ音を立てて、まっぷたつに割れた。なんの迷いもなく。力に負けたとわかった瞬間、弾け飛んだのだ。
あんな風になれれば良いのに。
そんなことを思いながら、静かに目を伏せた。俯せに倒れている所為で、最初から周囲の風景は見れなかったが、これで本格的に暗闇が広がった。不思議と、そのことに安堵が広がった。
爪の先に違和感を感じ、重い瞼を押し上げると、右腕の爪がぼやけていた。消えている。じわじわと何かに浸食されるように、あるはずのものがなくなり始めている。
その現象を見咎めることは、最早無駄なのだ。どう足掻いたとしても、避けることなど出来ない。分かり切っている。
さよなら。
この世界に別れを告げるのは、これが最初で最後だろう。別れなど、何度も告げたい物ではない。だからもう、あとは消えるしかない。わかっている。逃げたりしない。逃げれないのだから。
たった一つ、この身体に潜んでいる命令のために、消えねばならないことに、今ではもう不満などない。
この身体が生まれたときから、それは予感していたことなのだ。いつか、消える。いつか、死ぬだろう。何故なら、この身体は非道く高慢なのだだから。
意志を曲げて生きるくらいなら、さっさと身体を破壊してしまうほどに。
きっと家族の誰もがいつの間にか消え去ったのはこういうことなのだろう。
細胞の欠片まで破壊され、消滅し、存在という存在が消えてしまう。だからもう、終わりなのだ。
瞼の向こうには天国が見える。そう教えてくれたのは誰だったのだろう。
そのときは信じたけれど、今は何も見えはしない。存在するのは静謐なまでの暗闇のみ。けれど何故か、心地よい。
さよなら。
別れを告げるのは最後だと思ったけれど、本当の最後にもう一度。
それだけ、この世界が名残惜しかったのだ。誇り高い身体を見捨てたくなるほどに。
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