『リスト』

2004年1月5日
 ぽつぽつと打たれた数字の横に、大事な物を書き連ねてみた。

1.家
2.あいつ
3.ずっと前に貰ったテディベア

 そこまで書いて、指は止まった。
 大事な物。捨てられない物。何処にいたって必要な物。それがないと自分が自分でいられなくなってしまう、そんな物はこれだけだったようだ。
 そのことがわかると、なんだか無駄に吐息がこぼれ落ちた。なんだ。そうだったのか。そんな気持ちがもやもやと広がる。カラフルだった世界が端からモノクロームに変化していく気分。何かに浸食されている不快感だ。

 大事な物が少ないってことは、生き残れる可能性が高いってことなんじゃないかと思う。それがないと生きられない。そんな気分になる可能性が低いってことだから。
 だけど、それとは逆に思い知らされる。自分はなんだかんだ言いながらも、独りでしかないんだってことを。それは死んでしまっても、悲しむ人も困る人も、少ないってことじゃないか。
 なんだ。そうだったんだ。
 急に、力が抜けた。

 そんな風になると、ふと疑問が首をもたげる。自分は、本当に生きてる?
 死んでしまっても、困る人も悲しむ人もいないってことは、生きていても喜ぶ人も笑う人もいないってことで。ということは、ひょっとして本当は死んでしまっていて、私独り、そのことに気づかずに生きてるつもりで悶々としているだけなのかもしれない。
 ぞっとした。
 足下ががらがらと崩れ落ちていくような気がする。
 モノクロームに染まりきった世界の端に、罅が入っているのが、目についた。

 ぎゅっと手首を握りしめる。
 そうすると、どくどくと血の流れる音がする。それでいて、握られた手首にしこりのような不快感が広がる。掴んだ手のひらに、微かに熱が移る。それもなんだか気持ちが悪い。
 大丈夫、まだ生きてる。

 ふっと息を吐いて、大事な物を思い浮かべる。
 大丈夫、あいつがいる。
 あいつだけは、私がいなくなったら、きっと困る。ひょっとしたら悲しんでくれるかもしれない。泣いてくれるかもしれない。
 だから大丈夫。

 あいつが隣にいる限り、私は生きていられる。

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