『すき』

2004年1月24日 魔女
 初めて見る表情だった。
 いつも自信に溢れていた彼女が、目に涙を浮かべそうなほどに苦しげにしている。きつく握りしめた拳が小さく震えていて、大丈夫かと問いかけそうになる。

「貴方が好き」

 俯いたまま、彼女が呟いた。
 いつだって豊かに感情を表しているアルトの声は、掠れたあげくに震えていた。

「貴方が好きなの」

 もう一度、噛みしめるようにゆっくりと呟き、魔女は顔を上げた。

「ごめんね」

 好きになって、ごめん。
 そんな意味のことを呟いた彼女の眼差しは、揺れていた。
 弱々しい声と眼差し。触れれば折れてしまいそうな儚さは、彼女本来の物ではない。

「魔女の愛は、痛いから」

 静かに呟いて、いかにも無理矢理といった風に彼女は笑った。
 口元は引きつっていたし、目は今にも泣きそうに光っている。

 それでも彼女は笑った。
 そしてもう一度、貴方が好きと繰り返した。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索