『more important』

2004年1月28日 魔女
 母さんは父さんを愛していたのよ。

 でもね、母さんは人間だった。だから父さんが死にかけていても、その命を奪えなかった。一息に殺してあげられなかった。
 そのことを母さんはずっと考えてる。後悔はしてないけど、満足もしてない。殺してあげれば良かった。だけどどうしたって生きていて欲しかった。そんな気持ち。
 それでまぁ、私が生まれて、母さんは喜んだ訳。愛した人の血を引く子供だから。私の目と髪の色は父さんのもの。だから母さんは私を確かに愛してた。
 でもある日、多分思っちゃったんだと思う。死ねば、きっと父さんに会えるって。

 私が十五歳の時、母さんはすべてを託した。魔女の真実を教えてくれた。そして逝っちゃった。

 多分ね、耐えきれなかったんだと思う。愛しい人のいない世界で、一人生き続けることが。苦しくて悲しくて寂しくて仕方がなかったんだと思う。それくらい、愛してたはずだから。
 母さんは自分にとって一番大事な物が何か、わかってた。もちろんそれは父さん。
 父さんのためなら、母さんはいくらでも死ねた。父さんを幸せにするためなら、誰だって傷つけることができた。本当の気持ちで、愛してしまったから。
 だからね、自分の命なんて安い物だったのよ、母さんにとっては。父さんに会えるなら、命くらい簡単に捨てられる。それくらい愛してた。
 誰かを本気で愛してしまった魔女は、盲目的なまでに一途なの。

 だから母さんは逝ってしまったの。
 残していく私に無関心だった訳じゃないの。ただ、何よりも重要な物が父さんだったってだけで。
 でもきっと、寿命が近かったんだと思う。
 だから空を飛んでしまった。

 愛してたのよ。誰よりも愛してたの。
 そんな魔女の血を、私も引いているの。だからね、逃げられないって思うの。

 ゴメンね。
 私はきっと、貴方を傷つける。

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