『Sweet toxicity』

2004年1月30日
 水辺に腰を下ろしていると、後ろから誰かが近寄ってくるのがわかった。草を踏みつける音がやけにうるさい。
 こんな歩き方をする知り合いは、羽水には一人しか思いつかなかった。

「羽水」

 予想通りの声で名前を呼ばれる。振り返ると、夕月が不満げな顔をしていた。
 その様子からして、力を使い羽水を探したのだろう。夕月は水と闇以外の精霊に愛されているのだから、それくらい大したことではないのだ。

「どうした?」

 つい最近知り合ったばかりの女性は、非道く扱いにくい人だった。
 なんというか、つつけば噛み付かれ、遠ざかると怒られる。適当な距離が掴みにくいのだ。
 力が強く、その気になれば羽水などあっさり焼き殺されてしまう。そして手加減しているという事実を隠そうともしない。その思い切りの良さが、嫌みさを感じさせず、得をしていると思った。

「いや、別に用は無いんだけどな」

 羽水の隣に腰を下ろした彼女は、やっぱりどこか不満げだった。

「不満そうだな」

 とりあえず、直球で聞いてみると、夕月は顔を顰めた。不満というより、今度はなんとなく嫌そうな雰囲気が広がる。

「別に、不満って訳じゃないんだ」
「何があった?」

 問いかけると、夕月は少しばかり口ごもった。
 あまり言いたくないと、態度で告げている。それからいかにも仕方がないというように溜息を吐き、口を開いた。

「……あのな」
「ああ」
「お前の隣は居心地が良いんだ」
「……それは、どうも」

 予想以上の返答に、呆けた返事をかえすと、夕月は笑った。

「中毒性があるな」

 そう言って彼女は、いつになくリラックスした様子で、目の前の池を眺めた。
 羽水は、何も言えなかった。

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