少年が生まれ育ったのは、地下の塔だった。
 深く深く、狂ったもぐらのように、底を掘り進めるマイナスの塔。最上階は地上への扉となっているらしいが、定かではない。
 そこを管理するのは巨大なコンピュータ群だ。それらを一括して管理する脳が3つ。
 そして地上に住む人はいない。少なくとも政府はそう発表しているが、そうでないことを少年は知っている。
 塔の最上階に行ったことがある人間はそうそういない。少なくともそういった人間は、政府側の管理人であり、少年とはどうやっても相容れない。
 けれど最上階まで行かずとも、塔のどこかに地上への抜け道があるというのは、ここで暮らす人間にとっては有名な話だ。そのため、政府の人間が見張っているドアや部屋は、外への道なのだと考えられている。
 もちろん、外へ行った人間は帰ってこない。だからその噂が真実かどうかはわからない。単純に地上を求める誰かが言い始めた、都市伝説であるのかも知れない。もしかすれば、政府に殺された誰かを偲んでいるだけなのかもしれない。
 それでも誰もがその噂を信じる。
 誰もが地上への扉を求めているのだ。

 少年はあの日のことを忘れてはいない。
 共に暮らしていた少女が、地上への扉を見つけたと叫んだ日を。
 驚き、本当かと聞き返すと、彼女は自信ありげに笑い、小さくウインクをして見せた。けれどどれだけ聞いても、その扉の在処を教えてはくれなかった。
 そして次の日、彼女は消えた。
 少年がどれほど探そうとも、その姿は見つからず、小さな手がかりさえ見つけることはできなかった。
 だから少年は信じている。
 彼女は自分を置いて、地上へ行ってしまったのだと。

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