『Dear my half』

2004年3月29日
 千夏が消えたときのことは、今でもよく覚えてる。
 中学校の帰り道、河川敷を二人で歩いてた。右側が私。左側が千夏。道があんまり広くなかったから、二人とも、外側の肩に鞄をかけていた。色違いのトートバックは、去年の誕生日プレゼント。ピンクのを千夏、ブルーのを私が買って、交換した。
 夏だった。暑かった。
 コンビニに寄って、アイスでも買おうかって話した。でもお小遣い前だったから、二人で一つにしようか、とか。それじゃ溶けちゃいそうだから、ガリガリ君にしようか、とか。そんなこと話した。
 千夏は笑ってた。
 私も笑ってた。

 その後、道を曲がった。
 そうしたら、千夏が、消えた。

 その時のことは良く覚えてる。
 だけど、画像の切れ端ばかりが、頭の中で爆発してて、順番通りに並んでくれない。夕焼けよりも赤かった千夏とか、ぐしゃぐしゃに潰れた金属の臭いとか、鼓膜を貫くような高い音。
 それらが、頭をがんがん叩きつける。
 私は走った、らしい。近くの家のインターフォンを殴りつけて、電話を借りた。携帯電話の通報はよくないって、どっかで聞いたのを覚えてたみたい。
 それから、それから、黙ってた。
 千夏を見て、何かの残骸を見て、汚れたブルーのトートバックを見た。
 それから――。

 千夏は消えた訳じゃない。
 中途半端に消えてしまった。今も昏々と眠ってる。嬉しいのか悲しいのか、苦しいのか悔しいのか、痛いのか切ないのか。何もわからないけど。
 曖昧に壊れた千夏は、多分もう、元に戻らない。みんなわかってる。でもみんな、何かに縋ってる。私が一番、諦めてる。

 千夏。
 千の夏。終わらない夏。
 私の夏は、あの日から終わってくれない。

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