『小さな頃から』

2004年4月11日
 小さな頃から、魔法の言葉があった。
 それはなんてことのない言葉だけど、私達の中ではとても大切で、重要で、必要なものだった。優しくて、楽しくて、嬉しくなるような、大事な言葉。
 眠りに落ちる直前、手をそっと握りしめて、呟くの。
 それだけで、私達は大丈夫なんだって信じられた。怖がることなんて一つもなくて、ちょっとした悩みも明日になれば解決するって。
 そしてそれは、大抵現実となった。

 魔法の言葉は、今では無くなってしまった。死んでしまったの。
 叶わない現実があるってことを、知ってしまったから。もう魔法は使えない。一人きりじゃ、呪文は完成しない。
 冷えた指先を握りしめても、凝り固まった熱は流れてくれない。ただ寂しさとか悲しさばかりを訴えて、魔法の完成を密かに祷っている。

 小さな頃から。
 私達には魔法の言葉があって、小さな呪文を唱えるだけで、私達はなんだってできたし、何にだってなれた。
 今、魔法が使えないのは、大きくなってしまったからじゃない。
 ただ、一人になってしまったから。

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