『ハクジョウ』

2004年5月4日
 十六歳になって、葉月は身の振り方を考えることにした。
 このまま冒険者を続けるのも良いかもしれない。強化師として暮らせないこともないだろう。仕事はそこそこ入ってくるし、お金にも特に困ることはない。
 ただ、葉月程度の能力の持ち主なら、山のように存在することも確かなのだ。そこそこ仕事が入るといっても、常に閑古鳥が鳴いていることもまた事実だ。

 母の故郷へ行くということも考えた。いつだったか、叔父や祖父母に誘われたこともある。氷河の両親という人たちも、悪い顔はしていなかった。楽しく過ごせるかも知れない。
 けれどそこには、母もいなければ、養い親もいない。親しくしてくれた、氷河の妹もいなければ、父を知る人もいない。それは少し、少し寂しい気がした。

 我が儘だということは、とっくに知っていた。
 それでもなお、求めてしまうのは、葉月にとっての家族だった。父と母と、養い親の三人。全員で過ごしたことはない。けれどその三人だけが、葉月にとっての家族だった。
 優しい時間と、寂しい思いと、切ない温もりをくれた人々。
 それでいて、もう何処にもいない人たち。

 薄情と言われるかも知れないが、それだけが、どうしようもない現実だった。

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