『我が儘』

2004年5月6日
 冷えた指先が震えないように、掌をきつく握りしめた。
 それでも青ざめた唇が震えそうになるから、こちらは言葉を紡ぐことでごまかそうとした。そうでもしなければ、永遠に眠ってしまいそうな気がした。

「ぎゅってして」

 口元に力を込めて、それだけ呟いた。
 傍にいた彼は、しばし沈黙した。驚いたように、それでいて、どうすれば良いのか、わからないかのように。

「寒いの、嫌いなんだ」

 続けて、言葉を発すると、慌てたように彼はそっと私の手を取って、その冷たさに驚いたようだった。氷のよう、とまでは行かなくとも、水くらいには冷え切っていることだろう。
 それなのに、身体の内側ばかりがやけに熱を持っていた。傷を癒そうとしているのかもしれない。霞んだ視界を見ながら思った。
 動かなくなりかけた腕を伸ばして、そっと彼の身体に絡ませた。おずおずと触れた指先が、もう片方の指とぶつかったところで、ほうと溜息が漏れた。
 温かかった。涙が出るほどに。

「好き、いっぱい」

 今なら、死んでも良いと、素直にそう思った。
 それが、近い将来に訪れるであろうことは、なんとなく気づいていた。

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