『モノクローム』

2004年5月22日
 霞んだ夢を見て、目が覚めた。

 ぼやけた視界に映る、色取り取りの世界。季節は夏だった。雲一つない青すぎる空。木々の緑は艶やかで、雨の匂いがした。汗ばむ肌を持てあまして、嬌声ばかりを高らかに歌い上げた、懐かしい季節。
 まるで磨り硝子の向こう側の風景を見ているような、そんな夢。触れられない、遠い記憶の回想。
 それでもそこにどんな光景が映し出されているのかなんて、すぐに分かってしまう。誰がいて、何をしていて、どんな顔をしているのか。分からない筈がない。
 あの子の声が聞こえるから。
 もう聞こえない声が、現実では聞こえない、記憶と私に宿るあの声が、遠くから響いてくるから。

 目が覚めて、霞んだままの視界をぼんやり見ていた。
 コンタクトレンズが外れかけた瞬間みたいに、何かが乾いていて、かさかさしている。届かなくて、手を伸ばしたいのに、何処を見ればいいのか判らない。そんな感じ。
 やけに喉が渇いていて、なけなしの唾液を飲み込んだ。ざらざらした舌の感触が、妙にリアルで、気持ちが悪い。
 見たくない記憶を、見せつけられたから。
 もう放っておいて欲しいのに。

 透明な視界を取り戻そうと、しつこく瞬きを繰り返していると、何かがぽろりとこぼれ落ちた。
 それは熱い気持ちを溶かした雫で、なんだか妙に胸に突き刺さった。

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