『訃音』

2004年5月23日
 満月の夜に生まれた親友は、満月の夜に月に還ってしまった。

 彼とのつき合いは、生まれたときまで遡らなければならない。それほど長いつき合いだった。
 妹と親友が結婚し、自分は親友の従妹と結婚し、苗字が同じになり、毎日のように喧嘩をしては、謝り、謝られ、甘えられながら過ごした日々は、あまりにもあっさりと流れてしまった。
 当然だったのだ。
 彼が隣にいることが当たり前で、彼が隣にいないことは不自然で、彼が何処にもいないことなど、あり得ないことだった。

 我が儘な親友は、最期まで死にたくないと思っていたことだろう。例え神の元へ逝けるのだとしても、それでも彼は地上を離れたくなかったのだろう。
 その理由の一つが、自分にあることも、何となく知っていた。
 なんでも自分でできるくせに、独りになるのが嫌いで、必要のないことでも甘えたがる怠け者で、それなのに誰よりも強くて、いつも守られながら、逆に精神的に守ってやっているという優越感を教えてくれたり、退屈が嫌いで忙しい日々にも厭きていた親友。
 彼との友情は、非道くどろどろしていて、生温い底なし沼のようだった。依存したり、寄りかかったりしながら、それでもずるずると続けてしまう。好きとか嫌いとか、そんな感情を超えてしまったものだった。
 事実、彼のことを好きだと感じたことはあまりない。嫌いだとはよく口には出したが、心底そう思ったことはない。
 当然だったから。
 その存在自体が、何よりも。まるで裏と表のように。張り付いて剥がれない、性質の悪い関係。

 だから知っていた。
 ああ、知っていたとも。

 彼が一人で逝きたくなかったと言うことを。
 本当は一緒に逝ってやれれば良かったのだと。
 けれどそれが無理だということも。

 二人揃って、知っていた。

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