『罪の大きさ』

2004年5月30日 魔女
 死んでしまえ、と叫んだ。
 そうして、私は愛しい男を殺した。
 それはあまりに呆気なくて、何事もなく終わってしまったから、私の心にじんわりと重く響き渡っただけだった。死というものが、うまく理解できなかったのだ。
 ただ、彼が荒い呼吸を繰り返し、心臓のあたりを強く抑えながら、また、時折のど元を掻きむしりながら、小刻みに痙攣する様を呆然と見守った。
 死とは何か。
 私には、分からなかった。

 彼の葬儀が終わり、私は町を出ることにした。もうここにはいられないということが、わかっていた。村人達は何故彼が死んだのか分かっていないだろう。私が罪に問われることも、当然ないだろう。
 けれどそれでも、もうここにはいられない。そう心のどこかが囁いていた。今はもう亡き、母の声に似ていた気がして、私はその声に従うことにした。

 旅に出る前日。
 一人、ベッドに横たわり、目を伏せた。

 町で過ごした日々は、あまり思い出せなかった。記憶の中に蘇るのは、紅すぎる夕焼けや、母の後ろ姿、真実の名前、魔女の呪いの言葉。
 そして最後に、彼の笑顔を思い出した。
 好きな人。とても好きな人。もしかしたら、好きだった人かもしれないけど。

 そうして分かった。
 死とは、もう会えないことなのだ。もう二度と触れられないことなのだ。
 手を伸ばしても、声をかけても、反応を得ることすらできないことなのだ。
 この喪失感が、死なのだ。

 では私の罪の大きさはいかばかりなのだろう。
 それは矢張り、わからなかった。

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