『夏、来にけらし』

　藍色の空に色取り取りの火花が散った。
　ミニの浴衣を着て、石段に腰を下ろしたまま、独り空を見上げる。綺麗だと思った。音と光に時差がない程に近いので、まるで頭の上に花火が上がったような気がする。
　夏を呼ぶ祭、なのだそうだ。
　こちらに来て二年目なので、あまりよくは知らないが、去年そんなことを聞いた気がした。
　もうすぐ夏がやってくる。それはひたひたと、足音を隠すことなく響かせ、確実に近づいてきている。

　蒸し蒸しとした湿気は、夏のものだ。
　ぼんやりとした風と、時折吹きよせる強風も。いつまでたっても明るい空も、真っ赤な夕焼けも、分厚く愚鈍な印象を持たせる大きな雲も。
　夏が来る。
　夏が来てしまう。
　あの花火が消えれば、夜が終わってしまう。夜が終わってしまえば、朝が来る。朝が来れば、明日になる。明日が来れば、明後日が来る。
　そうやって、夏は確実にやってくる。止めることなどできない。

　夜空に輝いては散っていく、儚い星を見上げながら、そっと瞳を閉じた。
　夏が来る。