『七夕の夜に』

2004年7月8日
 七夕祭りに行った帰り道、千夏と二人でとりとめのない話をした。
 はき慣れない下駄のせいで、水ぶくれのできた足の甲を庇いながら歩くのは、ただでさえ難しい。その上浴衣まで着ているものだから、二人ともいつも以上に歩くのが遅くて、その分どうでもいいことをたくさん話した。
 顔も知らない同級生の恋愛話や、先生に対する愚痴、両親を褒めたり貶したりして、兄貴の彼女のことも話した。
 いつも話しているようなこと。いつもと変わらない会話。中身のない表面だけの言葉。だけど何より大切な千夏との関わり。
 カランコロン。
 規則正しさの欠片もない、下駄がアスファルトを蹴る音。二人分の統制の取れていない足音。それがいつまでも耳に残った。

 その日は綺麗な夏空が広がった一日で、夜になっても空には雲なんて全然見当たらなかった。その代わり、東京の明るすぎる夜空のおかげで、星は全然見えなかったけど。
 それでもなんとなく、ぼんやりとだけど、天の川が見えた。牛乳を零したようなって、中々上手い表現だと思った。ミルキーウェイ。
「織り姫はさ」
 唐突に千夏が話題を変えた。よくあること。
「彦星に会えたんだろうけど、また別れちゃうんだよね」
「うん、確かそうだった気がする」
 昔話を頭の中で思い出しながら答えた。実際、あんまりよく覚えてなかったし、全然思い出せなかったから、適当な答えだったんだけど、それは千夏の記憶とは一致してたらしい。
「離さなきゃ良いのにね」
 心底不思議そうな声。
「そうだよねぇ、そんなに好きならずっと一緒にいれば良いのに」
 そうして無知な新発見を、二人で笑い合った。

 でも今なら分かる気がするんだ。
 離したくなくても、一人になってしまうこと。
 一人になりたくなくても、離れ離れになるしか道がないこと。

 ねぇ、千夏?

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