『海辺』

2004年7月30日
 シュウ君のことを思い出した。

 ベージュ色の砂浜は真夏の太陽を受けて、じりじりとした熱を持っていた。ミュールで来たのだけれど、時折砂が足に直接触れると、熱くて熱くて仕方がない。
 ミュールにつけられたスパンコールが、キラキラ輝いてた。
 太陽の下でキラキラ輝く、水面みたいに。

 別に泳ぎに来た訳じゃなかった。
 私が海に行きたいって言ったら、じゃあ、行こうってシュウ君が言った。それだけ。
 二人で電車を乗り継いで、たどり着いた海はなんというか、寂れた場所だった。人気がなければ、ロマンもない。
 ゴミとか打ち上げられた昆布とかあったし、海水も全然綺麗じゃなかった。まぁ、泳げって言われたら、遠慮しますって答えたくなるような海だった。
 そんな浜辺を二人で歩いた。
 特別な会話も、甘いムードもないけれど、多分、私達――少なくとも私は夏の暑さに酔っていた。

 ミュールを脱ぎ捨てて、波打ち際を走り出したのは、飛べる気がしたから。
 飛んだら、もう、帰ってこなくても良い気がしたから。足についたしがらみを振り切れる気がしたから。
 だけど――

 それでも、必死に引き留めて欲しかったから。求めて欲しかったから。

 シュウ君は私が望む答えをくれた気がする。あんまり覚えてない。
 夏の太陽の暑さに眩暈ばかりがして、人影越しに見える眩しい光しか私の瞼には残っていない。
 けど、視覚以外ではシュウ君のことをしっかりと認識してた。汗の匂い、べとついた肌、ごつごつした指先、掠めるように触れあった体温と、混ざり合うほどに触れあった温もり。
 シュウ君だ。

 シュウ君。
 君に、少し会いたい。

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