『夏休み。』

　夏休みといえば里帰り。

　えーと、まず兄貴とデートでしょ。それからさっちゃんともデート。あ、さっちゃんとのデートで兄貴も一緒に来てもらえばいーのか。荷物持ちくらいはやってくれそう。久々に東京でショッピングもしたいしねー。
　それからそれから、プリクラいっぱい取らなきゃ。あっちの人とは長期休暇くらいじゃなきゃ会えない訳だし。四十日分、きっちり取っちゃえ。無駄遣いだなんて言わせないよ。
　あ、美容院にも行かなきゃ。髪の色、そろそろ変えようかな。ぱさぱさになった毛先を切ってもらって、気分が乗ったらパーマをかけるのも楽しーかも。中学時代からずーっと行ってるあのお店、いつもの美容師さん、まだいるかなぁ。
　あとは縁側に座ってスイカを食べて、お日様に向かってぐんぐん伸びてる向日葵を眺めるんだ。
　親孝行もちょっとはしなきゃねー。
　ママと一緒に買い物に行くのは親孝行にならないか。じゃぁ、精々肩もみくらいしかすること思いつかないんだけど。料理はダメダメだし。誕生日は夏って誰もいないし。
　パパに関してはー…、ま、いっか。大好きだよ、って言えばそれで親孝行な気がするんだもん。

　これだけたくさんすることがあるんだよ？
　だから病院に行かなくたって、いいよね？

　眠ってるあの子の横顔なんて見たくもないしさ。私がそうすることで何か変化が起こるっていうなら、ずっとずっと見ているけど。
　でも無理なんだよ。
　病室のドアまでが限界。それ以上は踏み込むなって警告がガンガン鳴り響く。危険地帯。
　自分に関しても、病院には行かないよ。
　もう、治ったよ。治ってるでしょ？　元々大したことじゃなかったんだよ、ちょっとショックでおかしくなってただけ。
　それも治った。あんな絶海の孤島でも無事にやってるじゃん。だから、行かないよ。

　家に帰ったら、やりたいことがたくさんある。
　それをみんなこなして、それから笑ってまた帰るんだ。