『線香花火』

2004年8月29日
 午後9時ジャスト。
 真夜中の学校に集まって、グラウンドに忍び込んだ。別に特別な方法なんて、全然いらない。ただ門を乗り越えればいい。別にフェンスだって構わない。
 コンビニのビニール袋が、しゃららっと高い音を立てた。
 正門を難なく乗り越え、私は振り返ってピースをして見せた。OK、大丈夫。早くおいでよ。そんな気持ちを込めて。

 無駄にグラウンドの真ん中まで行って、百円ライターに火を灯した。
「どれにするー?」
 弾む声でシュウ君にビニール袋を差し出しながら、尋ねた。さっきコンビニで買ってきた色取り取りの花火。ばちばちと音を立てて燃える鮮やかな炎。
 でも火を付ける前の花火なんて、どれも同じに見える。シュウ君も同じ気持ちだったみたいで、大して中身を身もせず、その中から数本を取り出してくれた。あと蝋燭。
 細い風にも倒れてしまいそうな、ちっちゃな蝋燭に火を付けて、二人だけの花火大会が始まった。

 粗方、遊び尽くして、最後に残ったのはやっぱり線香花火。
 二人でしゃがみ込んで、その小さな火花をじっと見つめると、不思議と沈黙が広がった。静かすぎるくせに、決して不快じゃない温かな沈黙。
 火花の散る音と、細い風の音が響く空間は、まるで時間がとまってしまったかのようだった。
 勿論、私は知っていたけど。
 時間がとまってくれるなんてことは、決してあり得ないってことを。
 物事はいつか崩れてしまう。終わってしまう。そうじゃなくても、変質して、変形して、気がつけば戻れなくなってる。そういうものだってことを、私は妹が消えたときに知った。
 だからシュウ君との日々も、いつかは終わってしまうと思った。永遠なんてないわけで、この子供じみた、恋愛感情にすらほど遠い曖昧な「like」で、いつまでも繋がっていられるわけなんてない。それくらい、分かってる。
 きっといつか、心がすれ違い、そうして私達は終わるんだと、なんとなく思う。

 だけど。
 火薬の匂いと、弾ける眩しい火花と触れられない熱、そして暑い風と温かな沈黙。
 それがあまりに心地よくて、このまま時間が止まれば、きっとずっと幸せなのに。
 そう、思った。

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