『遠い人』

2004年9月8日
 親友と呼んでおきながら、きっとあの子は、私のことなんてなんとも思っていない。

 ナツは不思議な子だ。
 そのことには最初から気づいていたけれど、途中でその理由に気づいてしまったら、なんだかやけに泣きたくなった。楽しければ笑う。何に対しても怯えず、無邪気な笑顔を見せ、我が儘はよく言うけれど、それが通らなくても怒らないので、どこか何処か憎めない。
 どうして、いつもあんなに無垢でいられるのだろう。
 どうして、何一つ恐れずにいられるのだろう。
 とてもとても、不思議だった。

 けれど気づいてしまった。
 あの子は、本当のところ、自分も他人もどうでも良いのだ。ただ一応、自分を優先しているだけ。だからそれが無理であっても、気にしない。他人が傷つくことも、恐れない。そして自分が傷つくことも、恐れない。
 そうして、彼女は真っ直ぐに歩いていく。自分が行きたい方向へ。なんとなく気が向いた時に、迷うことなく。
 ――なんて、寂しいんだろう。

 それはたった一人きりの世界。もしかしたら、彼女自身さえ存在しないかもしれない。空っぽの国。
 親友という言葉だって、本気で言っているのではないのだろう。彼女はできの悪いお芝居につきあってくれているだけ。それも別にやりたい訳でも、やらされている訳でもなく、きっと断る理由がなかったから。本当にそれだけ。
 あの子はきっと、本当に一人でも生きていけるのだと思う。一人であることを、怯えないのだから。生きることさえ、実はあまり執着していないのかもしれない。
 色々な物を好きといい、執着しながらも、引き離されたらあっさりと諦めてしまう。
 ナツは、そういう子だから。

 平気。と彼女は言う。
 何故と問うと、強いから。

 貴方は強くなんてない。決して強いのではない。ただ何も否定せず、肯定さえもしないだけ。
 根本から私と違う貴方は、とてもとても遠くて仕方がない。
 そして触れてもすぐに去っていってしまう。波のように。

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