あの空へと、一緒に行ってはくれませんか。

 彼女は我が儘な人だった。
 いつも自分が中心でいなければ納得がいかず、どんな話題にも割って入っては顰蹙――そうでなければ冷笑を買う。そうして八割が嘘の自慢話をしては、すごいでしょうと首を傾げて見せた。
 すごいね。
 そう呟くと、本当に嬉しそうに笑うのだ。当然だと言いたげに、それでいて何故か安堵したように。

 彼女はとても純粋な人だった。
 ただすごいと言って欲しかっただけなのだ。褒めて欲しかっただけなのだ。本当にそれだけを求めていた。
 すごいと褒められるような人ならば、それは何かを確実に認められているから。そう、信じていたのだろう。最後まで、必死で我が儘を言っては、周囲を困らせ、女王のように振る舞いながら、どこか泣きそうだった。

 最後に会ったのは、空への玄関口だった。
「一緒に行こうよ」
 そう呟いた彼女は、泣きそうな表情をしていた。それでも強がって、笑う姿はとても痛々しく、それでいて彼女らしい。そう思った。
「無理だよ」
 短く答えると、くしゃりと顔を歪め、
「知ってた」
そう、呟いた。
 きっと女王は知っていたのだろう。
 臣下など一人もいなく、誰もが嫌々つきあっていただけで、本当の友達も恋人も存在しないことを。そして知っていながらも、女王でいるしか術を知らなかったのだろう。

 一緒になど行けるわけがない。
 空はこんなにも広く青く、一瞬で二人を飲み込んでしまうだろう。そうやって終わってしまえば、ある意味幸せなのかもしれないけれど、まだまだやり残したこともたくさんあるし、彼女につきあう義務もない。
 臣下ではないのだから。
「さよなら」
 別れの言葉を呟いた彼女は、振り返らなかった。
 その細い背中が空を飛ぶ様を見ることなく、僕は踵を返した。

 空は相変わらず、青かった。

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