『鍵』

2004年9月30日
 こころのとびらをひらくかぎ。

 ベンチに座っている妹は、端から見ていて可哀想になるくらい青ざめていた。怯えや緊張や、恐れや不安。そして希望にすらならない、微かな望み。その狭間で揺れ動き、ただ震えている。
 近づいて言って、名前を呼ぶと、ゆっくりと視線をこちらに向ける。
「何?」
 問いかける声は、震えていた。
 柔らかそうな唇は、今までに見たことがないほど白かった。ずっと噛みしめていたのだろう。
 それでも彼女は笑った。
 引きつったように、無理矢理作ったかのような、出来損ないの笑顔は、とても痛々しいもので、こちらまで苦しくなってくる。震えながらも、平気なんだと言い放つその心は、ひたすらに哀れみばかりを感じてしまう。

 血の気の引いた頬に、そっと掌で触れると、びくりと彼女が震えた。
 それから、ゆっくりと、掌に頬を寄せ、何かを求めるかのように溜息を吐き出した。疲れた。そう言いたげに。
 けれどまだ、――笑う。

 閉ざされた心を開く鍵は、たった一人しか持っていない。
 扉を無理矢理壊す勇気はなく、合鍵になろうともしなかった。

 お願いだから。この子を解放してあげてくれ。
 心底、そう思った。

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