『傷跡』

2004年11月25日
 膿んでいたのか、病んでいたのか。
 それとも傷ついていたのか。

 いつだったか、千夏と大げんかをしたことがある。
 理由は確かくだらないことだった。そのくだらないことをどんどん発展させて、無駄なことを叫びあった末のことだった。
 二人とも、相手がどうして怒っているのかわかっていた。それでいて認めながら、踏みとどまれなかった。ただ、ちょっと意地を張っていただけのことで、どちらかが言葉を止めれば、それで終わる喧嘩だった。
 私達の喧嘩は、いつもそうやって終わっていた。
 傷つけ合うこともなく、言いたいことを言い合って、にらみ合った後吹き出すような、そんなどうしようもない喧嘩だった。
 だからその日も、同じように終わるのだと信じて疑っていなかったのだ。

「大嫌い!」

 叫んだのは、どちらだったのか。
 私だったのかもしれないし、千夏だったのかもしれない。二人同時に言ってしまったのかもしれない。わからないけれど、きっと千夏も同じように思っていただろう。
 それは禁句だった。
 私達は同じイキモノだから、相手を嫌うと言うことは、自分を嫌うと言うことで、自分を嫌うと言うことは、相手を嫌うと言うことにあたる。それはよく知っていた。知っていたけれど、何かの弾みで言ってしまったのだ。
 それはきっと、風が吹いたとか、太陽が陰ったとか、そういう偶然かつ私達と何一つ関係のないことが、スイッチだったのだと思う。

 その後は二人で大泣きした。
 謝ることもできないほどに、ぼろぼろと涙を流しながら、抱き合って、寄り添って、互いを必死に感じ取っていた。
 傷つけたとか、そんな生優しいものじゃなかった。
 だから私達は、まるで殺し合うかのように、その痛みを舐めあった。必死に。
 元々、私達は少し間違ったイキモノで、たった二人しかこの世界に存在しないのだから、重ね合って生きていくしか術を知らなかった。そうやって生きていく方が楽だし、今までの生き方を否定するのは酷く面倒な気がしていたから。
 けれどこのとき、自分たちが間違っているのだと、一瞬真剣に気づいてしまった。
 膿んでいる。そうでなければ病んでいる。
 そうでなければ、一つの心を二人で共有しているかのような。

 涙が収まったあと、二人で顔を見合わせて、ちょっとだけ笑った。
 そうして、ごめんね、ありがとう、と呟き、また少しだけ、泣いた。

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切ない30の言葉達
http://purety.jp/moment/30w.html

03 傷跡

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