『冷たい鎖』

2004年11月29日
 運命の二人を結びつける赤い糸。
 私達を緩やかに結びつけたのは、細く冷たい鎖。

 自然な流れで、シュウ君と手を繋いだ。
 少し驚いた気がしたけれど、私は笑って指先を絡めた。そうしたら、逆にシュウ君が驚いたようで、掌がびくりと震えた。
 それが面白くて、もっと指を絡めた。普通に手を繋ぐんじゃなくて、恋人同士がやるように、指を組み合わせてぎゅっと力を込める。
 ちらりと視線を横に向けると、シュウ君の耳がほんのりと赤く染まってた。身長の差が五センチもない私達だから、それはとてもよく目についた。短い黒髪の間から、覗く耳朶。なんだかとても可愛いと思った。
「ねぇ、シュウ君」
「…なんだよ?」
「楽しいねー」
 にこにこ笑ってしまったのは、本当に楽しいと思ったから。こうやって二人並んで歩くことも、手を繋ぐことも、彼の耳を赤く染めることも。
 シュウ君はちょっと呆れたような顔をして、それからくしゃっと笑った。そうだねと肯定するように。優しく、温かく。
 季節は初夏で、手を繋ぐには少し暑かったけれど、その強すぎる体温が不思議と心地よかった。力強くて、少し強引な熱は、私の心に何かを訴えかけているような気がしたから。
「手、大きいね」
 繋いだ手を持ち上げて呟くと、シュウ君は心外だと言うような顔をした。
「でもバスケのボールを、片手で持てないんだ」
 それが悔しくて仕方がない。シュウ君は言葉にしないけれど、心の中できっとそう思っていたんだろう。私の手を握る掌に、ぎゅっと力が籠もった。
「でもさ」
 シュウ君の体温は、きっととても高いんだろう。彼の心と一緒で。
「手を繋ぐには、丁度良いよね」
 私はまた、指先を深く絡めた。

 私達の小指には、赤い糸は結ばれていなかった。
 私はそれを知っていたけれど、幸せだったし、楽しかった。いつか来る別れにも、恐れなんかなかった。ただ、いつか離れなければならないことが、残念だと思った。それだけだった。
 私の心はいつもどこか冷めていて、僅かな風で冷え切ってしまう。熱伝導の良い、金属のように。
 けれど、シュウ君が手を繋いでいてくれたから、いつだってほんのりと温かい気持ちでいられた。冷えた鎖を、彼はずっと暖めてくれたのだ。冷えて、細くて、掴みきれない鎖を。
 緩やかな時間が流れて、私がふらふらと何かに流されかけても、シュウ君はぎゅっと手を握っていてくれた。温かい心を、鎖に流し込んでくれた。
 その体温は、ぬるま湯よりも気持ちよくて、私は何かを忘れていった。

 ありがとう。シュウ君。
 君には今、それしか言えない。

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切ない30の言葉達
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06 冷たい鎖

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