忘れられないことなんて、一つもない。
ただ、一つだけ。
手の中で携帯電話が高らかに歌い上げた。音質の良い電子音が、この前ダウンロードしたばかりの洋楽を鳴らしている。メールが来たらしい。
何も考えず、携帯を開く。メールを読んで、私は少し首を傾げた。
この人は、誰だろう。
送り先を間違えたのかと一瞬思ったけれど、本文の中には私の名前があるし、親しみを込めた文章が書かれている。ふんだんに使われた絵文字と顔文字を、ぼうっと流し見てから、差出人の名前を見て、やっぱり私は首を傾げた。
差出人の欄には名前が書かれていた。ということは、私はこのアドレスを登録している訳で、つまり知り合いなのだろう。
「誰だっけー…」
呟きながら、アドレス帳をくるくるめくって、私は「あ」と声を上げた。
「中学ん時の友達だ」
こういうことがあったんだと、話したらきっと親友は眉を顰めるだろうなぁ。そんなことを思いながら、何も考えず返信のメールを打った。
一度名前を思い出せば、その人のことはなんとなくわかる。記憶の底から色々な物を引っ張り出せるけれど、名前を忘れてるって結構致命的なことだと思った。
元々、私はあまり人のことを覚えていないらしい。興味がないと言ってしまえば、それまでなのだけれど。
送信完了の文字を見届けて、携帯をポケットにしまった。
いつかは忘れてしまう。
それが今だっただけで、どちらかと言えば思い出せた分だけ、良いと思う。
忘れられないことなんて一つもない。
痛いことも悲しいことも、全部忘れて、それでも私は生きているんだから。
+ + + + + +
切ない30の言葉達
http://purety.jp/moment/30w.html
07 記憶
ただ、一つだけ。
手の中で携帯電話が高らかに歌い上げた。音質の良い電子音が、この前ダウンロードしたばかりの洋楽を鳴らしている。メールが来たらしい。
何も考えず、携帯を開く。メールを読んで、私は少し首を傾げた。
この人は、誰だろう。
送り先を間違えたのかと一瞬思ったけれど、本文の中には私の名前があるし、親しみを込めた文章が書かれている。ふんだんに使われた絵文字と顔文字を、ぼうっと流し見てから、差出人の名前を見て、やっぱり私は首を傾げた。
差出人の欄には名前が書かれていた。ということは、私はこのアドレスを登録している訳で、つまり知り合いなのだろう。
「誰だっけー…」
呟きながら、アドレス帳をくるくるめくって、私は「あ」と声を上げた。
「中学ん時の友達だ」
こういうことがあったんだと、話したらきっと親友は眉を顰めるだろうなぁ。そんなことを思いながら、何も考えず返信のメールを打った。
一度名前を思い出せば、その人のことはなんとなくわかる。記憶の底から色々な物を引っ張り出せるけれど、名前を忘れてるって結構致命的なことだと思った。
元々、私はあまり人のことを覚えていないらしい。興味がないと言ってしまえば、それまでなのだけれど。
送信完了の文字を見届けて、携帯をポケットにしまった。
いつかは忘れてしまう。
それが今だっただけで、どちらかと言えば思い出せた分だけ、良いと思う。
忘れられないことなんて一つもない。
痛いことも悲しいことも、全部忘れて、それでも私は生きているんだから。
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切ない30の言葉達
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07 記憶
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