『知らない』

2004年12月5日
 何も知らない。
 誰も知らない。

 ふわぁっと欠伸を一つして、珍しいなと私は一人笑った。基本的にあまり眠くならないという、お得な性質を持っている所為で、私にとって欠伸は少し珍しいのだ。ただ、夜になって、することもないのに眠ることもできないということもあり、一概に得な性質とは言い切れないことに最近気づいた。
 例外的に眠くなるのは、この上なくつまらない授業だけ。だけどそれだって、本当につまらない授業以外は普通に受けられる。暇すぎて、延々メールを打っている事の方が多いけれど。
 読みかけの雑誌を放り投げて、着替えもしないまま、私はベッドに転がり込んだ。眠いと少しでも感じた瞬間に、眠ろうとするのはもうクセになっている。
 眠くならないと言うと、羨ましく思われがちだけど、これはこれで楽じゃない。そう説明するのも面倒で、良いだろうとにやにや笑って、その話は終わりにしているけれど。
 寝れないっていうのは、一言で言うと暇。
 あとは、ふと気づくと妙な疲れが、身体にまとわりついている感覚。

 いつからこうなったんだろう。
 目を閉じながら考えた。随分前からな気もするし、つい一週間前からの気もする。瞼の裏に広がる闇は、チカチカと点滅を繰り返し、落ち着きを与えてくれない。
 実際、眠れなくたって大して疲れる訳でもない。別に構わない。好きにすればいい。私の身体なんだから。勝手にすればいい。そう思う。
 でもそれはつまり、いいかえてしまえば、自分の身体のことを理解できないということ。
 何を思い、何を感じ、何が欲しくて、何を捨てたくて、何が好きで、何が嫌いなのか。それさえもわからないということでしかない。自分のことさえ、一つもわからなくなっているだなんて、滑稽なことだろうと思った。
 でもそれはそれで、楽しいじゃない?

 自分のことをさっぱり理解できないのは、理解する必要がなかったからなのだと、知っている。
 私のことを、百パーセント理解してくれる人が隣にいたから、私は自分のことなんて少しも気にしなくて良かった。その代わり、同じように自分を見えない相手のことを、全部理解しようとしていたし、実際それは簡単にできてしまった。
 だから私は自分のことなんて、放っておけばよかった。例え、何かがあったって、あの子が全部わかってくれたから。そうして一つ一つ教えてくれたから。
 今、あの子が隣にいたとしたら。
 私がどうして眠れないのか、一瞬で悟って、笑って、子守唄を歌ってくれんだろう。
 でもあの子はいないから。
 私のことを本当に知る人は、いなくなってしまった。

 私は私を知らず、誰も私を知らない。
 ベッドの中で丸まりながら、きつくシーツを掴んだ。

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切ない30の言葉達
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