『子守唄』

2004年12月19日
 お眠りなさい。永遠に。
 世界が終わる、その日まで。

 私の不眠症もどきを知ったとき、ユウは真面目な顔をして子守唄を歌ってあげようかと聞いてくれた。その真剣な表情と、子守唄という子供っぽい考えのミスマッチに、吹き出したことは今も覚えている。それから笑うことないのにと、彼女が少し膨れたことも。
 そんなことを思い出しながら、幼い頃、母が唄ってくれた歌を思い出しながら、小さく口ずさんでみた。
 歌詞なんて少しも覚えていない上に、メロディーも適当な箇所がほとんどだけれど。懐かしさを覚える、セピア色の記憶を引っ張り出して、音という型を当てはめた。

 ――そうして、無意識のうちに私は――

 そっと目を閉じて、口ずさむ唄は私を決して眠らせてはくれない。そうとわかれば、誰かのために唄うしかなくなってしまう。そうなると、悩むこともなく、たった一人を私は選んでしまう。元々、他の選択肢が与えられていないのだ。きっと。
 眠れ眠れと唄っていれば、あの子は一生目覚めない気がする。
 けれどそれが当然だと思ってしまうのは、私が冷血動物だからなのだろうか。
 半端な状態で放り出された私自身は、いい加減、慣れてしまったけれど、心のどこかではずっとあの子を待っているのだろう。目覚める訳がないと思い、子守唄を歌いながら。
 何故なら、今あの子が目覚めたとしても、私達は時間の流れで引き離されているから、もう元には戻れないだろう。歪んで、姿を正しく映せなくなった鏡のように、真実をねじ曲げ、事実をそっと壊していく。そうなったら、あとはもう、壊れていくだけに決まっている。

 私は一人でだって生きていける。そう知っている。現にあの子がいなくたって、私は私のままだし、少しも傷つかなかった。痛みも涙もなかった。だから平気。
 けれど、今あの子が戻ってきたならば、忘れていた感情や、捨てていた思いを暴かれて、死んでしまうような気もする。
 それに本当のところ、私ばかりが損をしているような気がしてならないから。もう、終わりにして欲しいのだ。そのためになら、いくらでも歌いつづけてみせる

 戻って来れないなら、戻ってこなくて良い。
 人間は一人でだって、生きていけるのだから。

 ――あの子が眠り続けることと同じくらいに、自分が傷つき涙を流すことを望んでいた――

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切ない30の言葉達
http://purety.jp/moment/30w.html

16 子守唄

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