あなたがいない。
あなただけがいない。
三十メートルくらい先を歩く親友を見つけ、軽くジャンプしてから全力疾走開始。
「ユーウ!」
「ひゃぁっ!?」
後ろから抱きつくように飛びついて、名前を呼ぶと、腕の中でユウがびくりと震えて、悲鳴よりも情けない声を上げた。
「もうっ、びっくりするじゃない!」
驚いたせいか、自分の上げた悲鳴が恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてユウは文句を言ってきた。その微かに膨れた頬をつついて、私はにひひと笑って見せた。
「やー、ゴメンゴメン。まぁ、いーじゃん?」
軽く言うと、よくないとユウはまた叫んだけれど、あとはもう慣れた様子で仕方がないと肩をすくめた。
であったばかりの頃だったら、今から1時間くらいたったあとでも、この子はまだドキドキしてたんだろう。そういうことを思い出して、私はまたへらりと笑った。
「もう帰るの?」
「うん、今日はもうお終い」
並んで歩きながら、ちょっと首を傾げ、私はこれからの予定を決定した。
「よし、じゃあ、ミスドね」
「はぁ?」
僅かに目を見開いて、きょとんとした顔で私を見上げるユウ。こういう初々しいところは、慣れないで欲しいなぁとなんとなく思う。こういうのを、和み系っていうのかもしれないと思った。
「ミスタードーナッツ」
CMでお馴染みの唄を唄って、ウィンクをしてみた。こういう古めかしい仕草も、なんとなく面白いかから使ってしまう。
それから、まだぽかんとしているユウの腕をつかんで、ぐいぐいと引っ張って、道を曲がった。
まだ行くなんて言ってないとかなんとか、声が聞こえた気がしたけれど、それはもうあっさり、無視することにした。
行き慣れたドーナツ屋に入ると、店員のお姉さんが素敵な営業スマイルを浮かべて待っていた。
「えーっと、エンゼルショコラとー…、ハニーディップ。あとミルクチョコラテのホット」
「甘すぎ…」
私のオーダーを聞いて、ユウがぐったりした声を出した。なんだかもう、それだけでお腹いっぱいという顔をしながら、メニューを覗きこんで難しい顔をした。
「オールドファッションと…、烏龍茶一つ」
「無難ー」
「……ダイエット中なの」
私がからかうようにブーイングすると、ユウが恨めしそうな顔をしながら、上目遣いで私を見つめた。
「別にしなくてよくない?」
「ナツには言われたくなーいー…」
そういって、ユウはぷいっとそっぽを向いてしまった。子供っぽいその仕草が、彼女には似合うなぁとふと笑った。
二人でドーナツを食べながら、色々なことを話した。
本当にどうでもいいことから、貴重な試験範囲の話まで。きっと明日になったら、私は忘れてしまいそうだと思ったけれど、そんな時間はとても楽しく、あっさりと過ぎ去っていった。
お店を出ると、丁度水平線に夕陽が落ちようとしていた。
「わぁ…、綺麗だね」
「…………」
そうだねと答えようとして、唇から言葉がでないことに気づいた。いっこうに震えない喉を、掌で押さえていると、ユウが振り返って首を傾げた。
「あ、なんでもないよ」
咄嗟に出た声は、なんとなくいつもと違う音のような気がしたけれど、別に気にするほどのことでもないだろう。声が最初に出なかったことも同じく。
寮に向かって、赤い世界を帰りながら。
何かが足りないなと、ふと思い出した気がした。
+ + + + + +
切ない30の言葉達
http://purety.jp/moment/30w.html
17 いない
あなただけがいない。
三十メートルくらい先を歩く親友を見つけ、軽くジャンプしてから全力疾走開始。
「ユーウ!」
「ひゃぁっ!?」
後ろから抱きつくように飛びついて、名前を呼ぶと、腕の中でユウがびくりと震えて、悲鳴よりも情けない声を上げた。
「もうっ、びっくりするじゃない!」
驚いたせいか、自分の上げた悲鳴が恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしてユウは文句を言ってきた。その微かに膨れた頬をつついて、私はにひひと笑って見せた。
「やー、ゴメンゴメン。まぁ、いーじゃん?」
軽く言うと、よくないとユウはまた叫んだけれど、あとはもう慣れた様子で仕方がないと肩をすくめた。
であったばかりの頃だったら、今から1時間くらいたったあとでも、この子はまだドキドキしてたんだろう。そういうことを思い出して、私はまたへらりと笑った。
「もう帰るの?」
「うん、今日はもうお終い」
並んで歩きながら、ちょっと首を傾げ、私はこれからの予定を決定した。
「よし、じゃあ、ミスドね」
「はぁ?」
僅かに目を見開いて、きょとんとした顔で私を見上げるユウ。こういう初々しいところは、慣れないで欲しいなぁとなんとなく思う。こういうのを、和み系っていうのかもしれないと思った。
「ミスタードーナッツ」
CMでお馴染みの唄を唄って、ウィンクをしてみた。こういう古めかしい仕草も、なんとなく面白いかから使ってしまう。
それから、まだぽかんとしているユウの腕をつかんで、ぐいぐいと引っ張って、道を曲がった。
まだ行くなんて言ってないとかなんとか、声が聞こえた気がしたけれど、それはもうあっさり、無視することにした。
行き慣れたドーナツ屋に入ると、店員のお姉さんが素敵な営業スマイルを浮かべて待っていた。
「えーっと、エンゼルショコラとー…、ハニーディップ。あとミルクチョコラテのホット」
「甘すぎ…」
私のオーダーを聞いて、ユウがぐったりした声を出した。なんだかもう、それだけでお腹いっぱいという顔をしながら、メニューを覗きこんで難しい顔をした。
「オールドファッションと…、烏龍茶一つ」
「無難ー」
「……ダイエット中なの」
私がからかうようにブーイングすると、ユウが恨めしそうな顔をしながら、上目遣いで私を見つめた。
「別にしなくてよくない?」
「ナツには言われたくなーいー…」
そういって、ユウはぷいっとそっぽを向いてしまった。子供っぽいその仕草が、彼女には似合うなぁとふと笑った。
二人でドーナツを食べながら、色々なことを話した。
本当にどうでもいいことから、貴重な試験範囲の話まで。きっと明日になったら、私は忘れてしまいそうだと思ったけれど、そんな時間はとても楽しく、あっさりと過ぎ去っていった。
お店を出ると、丁度水平線に夕陽が落ちようとしていた。
「わぁ…、綺麗だね」
「…………」
そうだねと答えようとして、唇から言葉がでないことに気づいた。いっこうに震えない喉を、掌で押さえていると、ユウが振り返って首を傾げた。
「あ、なんでもないよ」
咄嗟に出た声は、なんとなくいつもと違う音のような気がしたけれど、別に気にするほどのことでもないだろう。声が最初に出なかったことも同じく。
寮に向かって、赤い世界を帰りながら。
何かが足りないなと、ふと思い出した気がした。
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17 いない
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