『キス』

2004年12月30日
 触れるだけの情事。

 久しぶりに帰った実家。
 東京の街はいつ見たって、薄汚れていて、何でもあるくせに曖昧で、無駄にひんやりしている。でもこれが私の街。私を育ててくれた、愛すべき故郷。
 夜遊びだって慣れたもの。
 何処に行けば何があるか、何処に行ったら危険なのか、それくらいわからなければ、この町では暮らしていけない。もっとも、危険な場所と楽しい場所なんて隣り合わせなのだから、何処にだって行くしかないのだけれど。
 そんな街で、行きずりの男とキスをした。

 クラブの片隅で、互いに好きとか嫌いとか、そういう感情を一切持たないキス。
 それはまるで形だけの悪戯。
 しかられることを待つように、誰かを驚かせることを待ち侘びるように、そっと流れる時間に身を任せる情事。

 ほんの数十分話をして、彼とは別れた。
 きっともう、会うことはないだろう。別に会いたいとも思わないし、彼だって再会を願ったりはしていない。
 ただ一瞬、触れあって、表面だけ交わって、その熱に絡みとられるわけでもない。楽しくも哀しくもない、嬉しくも寂しくも、痛みも快感も、良心の呵責も罪悪感も、何一つ残さない。
 そんな現実味のない触れあい。

 けれどそれは、これ以上もないリアル。
 私の心に何一つ生み出さない、無駄な温もり。

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切ない30の言葉達
http://purety.jp/moment/30w.html

20 キス

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