『美しいもの』

2005年1月13日
 口が裂けて、喉がひび割れる。

 ドーナツを食べて、幸せな気分での帰り道の筈なのに、何かが引っかかっている。ユウと並んだ帰り道も、いつもと何一つ変わらない。適当な会話を続け、ちゃんと聞いてないでしょうとユウに言われ、うんと素直に頷いたら怒られた。これもいつものこと。
 こんな私にも慣れているユウは、少し怒ってから、しょうがないんだからと笑った。
 それに関しては、否定する気はない。自分でも仕方のない奴だと思う。それは厳然たる事実だ。だからといって、それを事実だと思いながらも、改善しようと思わないから、このまま。
 だから仕方がないと言われ続けるんだろう。

 「本当に綺麗な夕焼けだね」
 ユウの言葉で、我に返った。
 それと同時に、突き落とされた。

 私の心にあった違和感の正体。
 いつになっても、胸から離れない蜘蛛の糸。痛くもなければ、痒くもないのに、悔しいほどにしっかりとまとわりついて離れない。傷一つ与えないクセに、いつまでだって、そこにいる。いつまでたっても慣れることのないように。
 あの日も綺麗な夕焼けだった。夏の夕暮れは遅くて、いつまでだって外で遊んでいられる気がしていた。だからあの日も遅くまで学校に残っていたのだ。
 そうして永遠に続くような、真っ赤な夕焼け空の下で、世界が赤く染まった日。
 その世界に、落ちていく感覚。

 「ナツってば!」
 ユウの声が瞼の裏に響く。
「もう、また聞いてなかったでしょ」
 軽く頬を膨らませながら、ユウは怒った口調で私に言った。それから少しばかり、優しいお説教をくれた。
 私はその言葉を聞き流しながら、夕焼けを見つめる。

 美しいだなんて、言えるわけがない。

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切ない30の言葉達
http://purety.jp/moment/30w.html

25 美しいもの

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