ハッピーバースディ
――トゥーユー。
零時三分過ぎに、携帯電話が高らかに歌い出した。たった一人のための着メロだから、差出人はすぐに分かる。緩む頬を抑えようともせずに、メールの受信ボックスを開いた。メッセージは一言。
『Happy birthday to you!』
「サンキュ、兄貴」
小声で囁いたお礼は、きっとこの上なく心がこもっていた。
ブラコンだと言われ続けた中学校時代。それを否定する要素が全然見つからなくて、全面肯定することに決めた。それから家を出て、寮に入って、少しは兄離れができたと思うのだけれど、やっぱり何気ない一つ一つがとても嬉しいのは、離れられてないからなんだろうな。
例え毎年恒例のメールだろうと、やっぱり嬉しいものは嬉しい。
私の中で兄貴は、どれだけ多めに数えても三人を越えない、数少ない特別な人なのだから。
それになにより、そうやって心から嬉しいと感じられることが、嬉しかったりもする。
好い加減、もうちょっとまともな人間になった方が良いとは思う。だけど、だからといって、どうすれば良いのかもわからないし、その必要性も大して感じないし、自問自答して振り出しに戻る。
全体的にプラマイゼロな私の心は、どうしたってそこから先へ進めない。
困ったもんだと、他人事のように呟いてお終い。実際問題困るのは、私の周りの人であって、私じゃない。だからやっぱり所詮他人事。
大抵のことじゃこれっぽっちも痛まない良心、あるのかどうかも疑わしい罪悪感、どこかに忘れてきてしまった思いやり。裏も表も、影も光もない心。そういうもののことを、考えて、ふと思い出した。
今日は、私だけの誕生日ではなかった。
ハッピーバースディトゥーユー。
口の中だけでそっと呟くと、懐かしい日々を思い出してしまい、瞼の裏がぎゅっと縮んだ。
忘れる訳がないのに、忘れてしまったのは、忘れたかったからなのかもしれない。それとも、忘れる筈はないと思っていたけれど、もう時間の経過とともに、本当に記憶から消し去ってしまったのかもしれない。
忘れていたことに対して、謝らなければとか、ゴメンねとか、そういうことは欠片も思わない。
だってヒトデナシだし。
ただ。
一緒に年を取りたかったと、それだけ思った。
+ + + + + +
切ない30の言葉達
http://purety.jp/moment/30w.html
26 闇
――トゥーユー。
零時三分過ぎに、携帯電話が高らかに歌い出した。たった一人のための着メロだから、差出人はすぐに分かる。緩む頬を抑えようともせずに、メールの受信ボックスを開いた。メッセージは一言。
『Happy birthday to you!』
「サンキュ、兄貴」
小声で囁いたお礼は、きっとこの上なく心がこもっていた。
ブラコンだと言われ続けた中学校時代。それを否定する要素が全然見つからなくて、全面肯定することに決めた。それから家を出て、寮に入って、少しは兄離れができたと思うのだけれど、やっぱり何気ない一つ一つがとても嬉しいのは、離れられてないからなんだろうな。
例え毎年恒例のメールだろうと、やっぱり嬉しいものは嬉しい。
私の中で兄貴は、どれだけ多めに数えても三人を越えない、数少ない特別な人なのだから。
それになにより、そうやって心から嬉しいと感じられることが、嬉しかったりもする。
好い加減、もうちょっとまともな人間になった方が良いとは思う。だけど、だからといって、どうすれば良いのかもわからないし、その必要性も大して感じないし、自問自答して振り出しに戻る。
全体的にプラマイゼロな私の心は、どうしたってそこから先へ進めない。
困ったもんだと、他人事のように呟いてお終い。実際問題困るのは、私の周りの人であって、私じゃない。だからやっぱり所詮他人事。
大抵のことじゃこれっぽっちも痛まない良心、あるのかどうかも疑わしい罪悪感、どこかに忘れてきてしまった思いやり。裏も表も、影も光もない心。そういうもののことを、考えて、ふと思い出した。
今日は、私だけの誕生日ではなかった。
ハッピーバースディトゥーユー。
口の中だけでそっと呟くと、懐かしい日々を思い出してしまい、瞼の裏がぎゅっと縮んだ。
忘れる訳がないのに、忘れてしまったのは、忘れたかったからなのかもしれない。それとも、忘れる筈はないと思っていたけれど、もう時間の経過とともに、本当に記憶から消し去ってしまったのかもしれない。
忘れていたことに対して、謝らなければとか、ゴメンねとか、そういうことは欠片も思わない。
だってヒトデナシだし。
ただ。
一緒に年を取りたかったと、それだけ思った。
+ + + + + +
切ない30の言葉達
http://purety.jp/moment/30w.html
26 闇
コメント