『闇』

2005年1月16日
 ハッピーバースディ
 ――トゥーユー。

 零時三分過ぎに、携帯電話が高らかに歌い出した。たった一人のための着メロだから、差出人はすぐに分かる。緩む頬を抑えようともせずに、メールの受信ボックスを開いた。メッセージは一言。
 『Happy birthday to you!』
「サンキュ、兄貴」
 小声で囁いたお礼は、きっとこの上なく心がこもっていた。
 ブラコンだと言われ続けた中学校時代。それを否定する要素が全然見つからなくて、全面肯定することに決めた。それから家を出て、寮に入って、少しは兄離れができたと思うのだけれど、やっぱり何気ない一つ一つがとても嬉しいのは、離れられてないからなんだろうな。
 例え毎年恒例のメールだろうと、やっぱり嬉しいものは嬉しい。
 私の中で兄貴は、どれだけ多めに数えても三人を越えない、数少ない特別な人なのだから。

 それになにより、そうやって心から嬉しいと感じられることが、嬉しかったりもする。

 好い加減、もうちょっとまともな人間になった方が良いとは思う。だけど、だからといって、どうすれば良いのかもわからないし、その必要性も大して感じないし、自問自答して振り出しに戻る。
 全体的にプラマイゼロな私の心は、どうしたってそこから先へ進めない。
 困ったもんだと、他人事のように呟いてお終い。実際問題困るのは、私の周りの人であって、私じゃない。だからやっぱり所詮他人事。
 大抵のことじゃこれっぽっちも痛まない良心、あるのかどうかも疑わしい罪悪感、どこかに忘れてきてしまった思いやり。裏も表も、影も光もない心。そういうもののことを、考えて、ふと思い出した。

 今日は、私だけの誕生日ではなかった。

 ハッピーバースディトゥーユー。
 口の中だけでそっと呟くと、懐かしい日々を思い出してしまい、瞼の裏がぎゅっと縮んだ。
 忘れる訳がないのに、忘れてしまったのは、忘れたかったからなのかもしれない。それとも、忘れる筈はないと思っていたけれど、もう時間の経過とともに、本当に記憶から消し去ってしまったのかもしれない。
 忘れていたことに対して、謝らなければとか、ゴメンねとか、そういうことは欠片も思わない。
 だってヒトデナシだし。

 ただ。
 一緒に年を取りたかったと、それだけ思った。

+ + + + + +

切ない30の言葉達
http://purety.jp/moment/30w.html

26 闇

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