君ノ瞳ニ恋シテル

2005年1月19日
 恋をした。
 恋をしていた。

 乱れたシーツの上に横たわっていると、地の果てまで落ちていくような気がする。全身を気怠さが覆っていて、生きているのさえ面倒で仕方がない。そんな気がする。
 脇に転がっていた毛布を、肩まで被ると、瞼がすっと重くなった。久しぶりの感覚。疲れた体がどこまでも落ちていくような、手を伸ばせばすぐそこに眠りがあるという幸せ。
 このままずるずると奈落の底まで落ちていきたい。
 そうしてしまえば、この霞んだ世界からも出て行ける。
 けれどそれが気のせいであることも、私は知っている。

 「恋をしたんだ…」
 呟いてみると、その声が予想以上に甘く、自分自身少なからず驚いた。
 恋をしていない誰かに抱かれた後に、こんなことを言うのはまるで言い訳のようだと思う。だけど誰に言い訳をすれば良いのだろう。後に何も残さないすり寄せ合う行為は、虚ろにしか響かないというのに。
「きっともう、あんなに真っ直ぐ誰かを好きになることなんてない」
 誰かに聞かせるのでもなく、ぼそぼそと低く呟くと、言葉は次々にこぼれ落ちていく。上手く制御できない。奈落の底ではなくて、大きな海まで流されていくように。
「全部私のものにならないなら、欠片もいらないくらいに」
 子供じみた独占欲と、どうにもならないことを知っている大人の諦観。貴方がいなくても平気だという意地と、他の誰も見ないで欲しいという紙一重の感情達。
「別にね、平気だったよ、君がいなくても」
 枕に顔を埋めると、瞼がしくりと重圧に震えた。
「でもね、やっぱり君がいれば良かったのにって思う」
 今更だけど。
「アレは間違いなく――」
 言葉は溢れず、喉の奥でとどまった。掠れた吐息だけが、枕に吸い込まれ消えていく。

 恋はしていても、それは愛じゃないっていうのはよくある話だと思う。
 けれど私は逆だった。
 私は確かに、一部の人を愛していたから、彼に対するあんな気持ちは知らなかった。誰も教えてくれなかった。何処に行けばいいのかわからないような、立ち止まっているのに、世界がぐるぐる回り続ける感情なんて。
 一人でも平気なんだと信じていたし、今でも信じているけれど、あの当時の甘い感情だけは、忘れることができない。
 そしてもう二度と、あんな恋はしないだろうということも、私は知っている。
 例えあの日々を、忘れてしまっても私はきっと諦める。
 覚えていたって、きっと心にとめない。
 宝石のようにそっと箱にしまうのでもなく、部屋の片隅に放置したままで。

 君への思いは、間違いなく恋だった。
 それは私の霞んだ心と瞳に、唯一鮮やかに映った、色褪せない感情。

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切ない30の言葉達
http://purety.jp/moment/30w.html

27 霞む瞳

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